教室立ち上げの動機は、自らの経験から得た「ある確信」だ。

「昔から料理と海外旅行が好きで、現地で友人ができるとそのお家で家庭料理を習っていました。日本に来る外国人も『家のご飯』を習いたいという人は多いはず。そう思って教室を開き、ホームページを開設しました」

スタート時の参加者は月にわずか1人。だが、回を重ねるうちに口コミやブログなどを通じて評判が広がり、みるみる生徒は激増。2013年には旅行口コミサイト「トリップアドバイザー」の関東地区のアクティビティで人気1位の座に輝いた。現在は月に100~150人の外国人がMUSUBIを利用している。うち7割が旅行者、残り3割は日本在住の外国人。1回6500円、6人定員の教室は1カ月先まで満杯だ。

参加者で多いのは、北欧やスイス、フランス、オーストラリアからの旅行者たち。香港や台湾から足を運ぶ客も増えてきた。

「みな、日本の基本的な食材や調味料への関心が高い。昆布や味噌、だしに関する質問が多いので、こうした食材の説明に最初の30分を割くようになりました。昆布だったら触ってもらい、匂いも確認してもらいます。だしの繊細な味に感動されますね。日本でかつお節と昆布を買って帰り、自宅でつくったと報告をいただくことも多いですよ」

茶懐石や和菓子、マクロビオティックがテーマの回もあるという。外国人の多くが苦手なのは「こんにゃくやタコ」だそう。

外国人に日本料理を教える教室はいくつもあるが、MUSUBIの特徴は「日本の家庭料理」に特化していること。寿司はつくらないが、家庭の寿司である巻きずしやちらし寿司はつくることもある。焼き鳥やラーメンのリクエストがあればほかの教室を勧めるといった徹底ぶりと、滑志田氏の自宅キッチンでの家庭的な雰囲気、フレンドリーできめの細かい教え方も口コミ人気を後押ししている。

話を聞いているうちに餃子が焼き上がり、すき焼きがぐつぐつと美味しい音を立て始めた。「いただきます」と手を合わせて食べ始める参加者たち。知る、つくる、食べる。ごく当たり前の日本の食文化がもたらす3つの楽しさは外国人を魅了する源泉だ。