若手6人と手作り。業績連動型の「社食」

社員食堂プロジェクトの面々。部署横断で公募され、社員投票によって選抜された。左から箕輪憲良(社長室)、大谷夏子(開発3部)、皆川久美香(検索メディア)、武井直子(販促企画部)、大野憲司(営業1部)。6人目のメンバー岡田義一は欠席。

ヤフー社内の雰囲気は確実に変わりつつある。それを象徴するのが「社員食堂」だ。井上は「飲食店はオフィスの外にいくらでもある」という考えだったが、宮坂は「社員が集える場所をつくりたい」と社員食堂づくりに動いた。

このため全社にプロジェクトのメンバー募集がかかり、昨年4月、社員投票から6人が選ばれた。部署の異なる6人は、通常業務をこなしながら、プロジェクトに没頭。コンセプトから運営方針まですべて自分たちで考えた。

まず昨年10月、本社の10階と15階に「カフェ」がオープン。続いて今年1月、本社近くに社員食堂を開設した。座席数は116。前の四半期の全社利益目標が達成できれば、次の四半期のランチが無料になる「業績連動型」の仕組みが特徴だ。ほかにもさまざまなチャレンジがあった。食材の仕入れ先を東北の被災地中心とする。看板やサインボードを社内で作る。幹部の「推薦図書」のコーナーを設ける――。全社で6000人を超える社員の力を借りながら、課題をひとつずつ乗り越えていった。プロジェクトメンバーの大野憲司は「力を貸してくれる人が、社内にこんなにいるのかと驚いた」と話す。

発起人である宮坂は、メンバーと一緒に飲食店を視察するなど、このプロジェクトに終始、積極的に関わった。メンバーの箕輪憲良はこう話す。

「井上さんと違って、宮坂さんは気のいいお兄さんという感じ。“怖い”と思うことはなかった」

「ワンピース経営」は日本のITを変えるか

「いまの経営陣はまるで『ワンピース』。宮坂はルフィです」

今回の取材では、複数の幹部や現場社員から、相次いでこんな言葉が飛び出した。『ワンピース』は、海賊王を目指す少年ルフィが、仲間を集めながら宝探しをする人気漫画だ。ルフィは友情に熱く、個性豊かな仲間を引き込む魅力をもつ。

「宮坂はピュアでビジョンがあるから、ほだされる。ヤフーという“強い船”に乗ったルフィです」(CMO・村上臣)

同年代の「仲間」を集めた経営陣では、馴れ合いにもなりかねない。だが、宮坂は「役職は配役」だと説明する。

「いまの経営陣は、『スマホファースト』へのシフトを急ぐ状況において最適なメンバー。役職はあくまでも配役にすぎず、環境に応じて必要な能力は変わっていく。私も含めて、経営幹部をフレキシブルに入れ替えていくことも必要だろう」