答えが「ある」井上と、答えを「探る」宮坂
社長を含む経営陣の刷新において、唯一残った取締役が、親会社ソフトバンクの社長である孫正義だ。一気に若返った宮坂体制では、孫の存在感がより高まっている。孫は昨年10月、ヤフーの発表会に初めて登壇し、「EC革命」を宣言した。この「無料化」は一時的に減益を強いられるリスクがあるが、その発案者も孫だった。
一方、孫は創業社長の井上雅博率いるヤフーに対しては距離を置き、経営には積極的に関わらなかった。この2人の「天才」のスタイルの違いを示すエピソードがある。
2007年頃、ヤフーの経営会議で孫が『もうすぐ世の中はモバイルにシフトする』と主張し、近未来の展望について熱っぽく示した。だが、会議の後、井上は宮坂学に『孫ちゃんはああ言っているけど、すぐには変わらない。5~6年はかかるから』という分析を伝えていた。宮坂はいう。
「いま振り返ると、2人の予測はどちらも合っています。井上さんは、自分の中にある『答え』に沿って経営をすすめているようでした。私の場合は『答え』がないケースもある。井上さんのやり方を真似ることはできない」
それではどんな手法を採るのか。宮坂は「社員の才能と情熱を解き放つ」と表現している。自らに足りない能力を、「仲間」に補ってもらう。そのために人事制度にも手を付けた。
制度改革の中心となったのが、人事本部長の本間浩輔だった。本間は人事の経験がなく、社内の誰もが驚く抜擢だったが、まさに宮坂から「才能と情熱」を解き放たれ、さまざまな制度を新設した。
たとえば年収1億円超も可能になる「プロフェッショナル職」。これは職位が上がっても管理職にならず、技術者としての専門性を突き詰めることができる制度で、いわば「エンジニアの才能と情熱を解き放つ」という取り組みだ。
また評価面では、上司4割、部下4割、周囲2割という「360度評価」を導入。さらに現場の上司と部下が、週1回、30分ほど1対1で対面をする「ワン・オン・ワン」という制度もつくった。上司と部下の互いへの信頼感と評価への納得感の向上が狙いで、社長の宮坂を含む経営陣も例外ではない。人事本部長の本間浩輔はいう。
「トップが率先してやることが重要。経営と社員のベクトルを合わせたかった」