社長が、真っ赤なTシャツで、記者会見に出てくる――。「ネット界のNHK」とも揶揄された昔のヤフーでは考えられない姿だ。なぜ「爆速」での改革が必要なのか。そこにはトップ企業ならではのジレンマがあった。
※第1回はこちら(http://president.jp/articles/-/12014)
楽天とアマゾンはお客。減益覚悟の「EC革命」
「今日は革命的な内容をご説明する」
13年10月。ヤフー会長を兼任するソフトバンク社長の孫正義(56)の発表は、業界を震撼させた。モールサイト「ヤフーショッピング」の出店料と売り上げに伴うロイヤルティを無料化する、という内容だったからだ。
「楽天市場」など競合のショッピングモールは、出店手数料とロイヤルティ収入が利益の源泉。ヤフーはどこで稼ぐのか。EC事業を統括する執行役員の小澤隆生は「ヤフーが得意な広告ビジネスの領域に持っていきたい」と説明する。
「『無料化』で出店のハードルを一気に下げることで、出店数と商品ラインアップを急増させ、『201X年に流通総額ナンバーワン』とするのが狙いです。ヤフーはいわばモールから“メディア”に転換することを目指しているので、楽天市場やアマゾンは競合ではなく“お客さま”になる。あらゆる会社に利用者を集めるメディアとして利用してほしい」
無料化の効果はてきめんに表れた。2万店の規模だったヤフーショッピングには、その4倍にあたる8万件の申し込みがあった。これは楽天市場の契約企業数、約4万社をはるかに上回る数字だ。
ただし出店作業は昨年12月にスタートしたばかりで、実際に店舗数が増えるのはこれからだ。むしろ現状は、「EC革命」に伴う痛みが先行している。出店手数料とロイヤルティ収入がゼロになることで、13年度下期には売上高では最大35億円、営業利益では最大50億円の減少が見込まれている。「利益2倍」を目標に掲げる中でそうしたリスクをとるのは、市場が拡がれば必ず利益も増える、という確信があるからだ。