「最大550万円」でも利用者は171人
危機を認識した右派政権は、移民政策を大転換した。2025年の庇護申請は2015年比で96%減り、2026年からはEU域外出身の一定の在留許可保有者に、帰国すれば最大35万クローナ、報道時の換算で約3万7000ドルを支給する制度を始めた。日本円なら約550万円という規模であるにもかかわらず、9月初めまでの利用者は171人にとどまった。
※Reuter「As election looms, Sweden's government is paying immigrants to leave」(2026年9月8日)
すでに安全、福祉、教育、雇用、表現の自由を得た人々にとって、祖国へ戻る合理的な理由は乏しい。政府が巨額を提示すれば人は帰る、という発想は現実的ではない。入口を広く開けた後で出口だけを大きくすることはできないのである。
しかも外国生まれは約220万人、人口の約2割に達している。外国生まれと、両親とも外国生まれの国内出生者を合わせた「外国背景」の人口は2025年末で約294万人、全体の27.7%に達した。社会はすでに、単年度の入国者数を減らすだけでは元に戻らない段階に入っている。
アメリカが直面する国境管理問題
同じ問題は米国にもある。バイデン政権の4年間に、税関・国境警備局が記録した国境での「遭遇」は約1100万件に達した。遭遇件数は入国を許された人数でも、重複を除いた個人数でもない。それでも、国境管理が事実上崩れた規模を示すには十分である。
トランプ政権への交代後、南西部国境の拘束件数が急減した事実は、バイデン政権に政策変更の余地がなかったのではなく、政治的意思が欠けていたことを示した。
民主党が不法移民に選挙権を与え、民主党に投票させるために国境を開いた、という批判が根強い。
合法化、永住、帰化を経れば移民は有権者になる。米国には出生地主義もある。移民流入に寛容な政党が、将来の支持基盤拡大を期待する政治的インセンティブは存在する。問題は、選挙で不法投票が何票あったかだけではない。10年、20年後に誰が有権者となり、どの政策を選べるのかという、国家の長期的な自己決定の問題なのだ。
ここで日本が直視すべき問題がある。帰化した者は、法律上は完全な日本国民である。人種や出自を理由に二級国民として扱うことは許されない。しかし、国籍取得と文化的同化、歴史認識、国家への帰属意識が自動的に一致するわけでもない。これは日本人が外国籍を取得した場合にも同じである。

