脳科学者 茂木健一郎氏

【茂木】日本の問題は、企業や社会をマネジメントする側にあると思います。経営者などのリーダーたちが勇気を持って新しい時代を拓こうとしているかどうか。僕は「deregulation(規制緩和、自由化)」は人間の脳にもあると思っているんです。脳科学の用語で言い換えると「脱抑制」です。これはダメだ、こうすべきだ、などと抑制ばかりかけていると、ポテンシャルは開花しません。逆に何でもやっていいよとすると、ブワっと一気に開花するんです。要するに、この国がダメになるのも再生するのもマネジメント次第だと思うんです。たとえば津坂さんが日本企業への投資の是非を判断するときには、その企業の何を見るんですか。

【津坂】日本企業の場合、われわれが最も重視するのは、経営者が変化や飛躍を起こしたいと感じているかどうかです。危機感があり、外部の人材を受け入れる体制が整っていれば、私は喜んで投資します。たとえば韓国のサムスンは、中国人とインド人を大量に採用しています。将来の市場がどこにあるかといえば中国とインドなのですから、中国人とインド人の優秀なスタッフが中にいなければ、その企業が成長するはずがないのです。

戦いを挑むのか、その前に諦めるのか

【茂木】福沢諭吉は『文明論之概略』で、幕末から明治への変化を「恰(あたか)も一身にして二生を経るが如く」と表現しています。まさにいまの日本にはインターネットとグローバル化という2つの黒船が来ていて、すべての日本人が「一身にして二生を経る」という変化への覚悟を持つべき時代です。本来、人間の脳にとって変化することは最高に楽しいことです。だから、「変化すること自体が善である」という発想に変えていかないといけません。

【津坂】世界が変化に対して必死に適応しようとしている中で、日本だけが持続可能ではなくなった古いシステムにしがみついているように思えます。