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変化の激しい時代にどちらが有用か?

【茂木】NHKが「ハーバード白熱教室」という番組でマイケル・サンデル教授の「Justice(正義)」という政治哲学の授業を紹介したところ、大きな反響がありました。教室には1000人を超える学生が詰めかけていますが、対話形式で授業が進んでいきますね。

【津坂】ハーバードでは「ソクラティック・メソッド」と呼ばれています。古代ギリシアの哲学者ソクラテスのように、教師と生徒が対話を重ねながら問いを掘り下げていくシステムです。

【茂木】日本からの留学生は、まずそのスタイルに驚くそうですね。教師は正解を示そうとせず、いつまでも議論が続く。日本の教育システムでは、正解を覚え込むのが勉強とされてきました。日本の文系エリートを養成してきた東大法学部では、いまだに多くの教授たちが90分間しゃべり続け、学生たちはそれをノートに取り続けている。情報のやりとりは一方的で、学生は、教師が言ったことを覚えることを求められるわけです。

日本では「ハーバードは優秀」と言うときに、偏差値というヒエラルキーでトップにいる東大と同じようなイメージを当てはめがちですが、それは全然違うんですよね。多言語話者について書かれた『Babel no more』(未邦訳)という本には5カ国語を操るハーバードの卒業生が出てきます。彼のIQは105だったそうです。よく冗談で言うのですが、歌舞伎俳優の市川海老蔵は、東大には絶対に入れないと思いますが、英語さえできればハーバードには入れる可能性がある。

【津坂】もちろん数学や語学力など、入学に際して基盤となる能力は必要です。しかし、米国の大学は受験生の総合力で判断します。アカデミー賞主演女優賞のナタリー・ポートマンも、ハーバードを卒業していますね。日本の教育制度では、そういう「その他」が評価されません。

【茂木】AO入試は、日本では「ゆるい入試」とほぼ等価になっていますよね。どうも日本人には「全人格的な判断をされたくない」という風潮があるようです。

【津坂】どういう意味ですか?

【茂木】ツイッターでの反応なんですが、単に試験で測られるのはいいけれど、人間として裸にされてジャッジされるのは嫌だというんです。しかしアメリカでは、人間としての魅力や力を訴えていくことが常に求められますよね。