【茂木】「東大が秋入学になるかどうか」は騒ぐほどのことではありませんよね。変化としてはむしろ「not enough(十分ではない)」です。あらためて思うのは、日本のエスタブリッシュメントやエリートと言われてきたような人たちが、まったくリスクを取ろうとしないことです。リスクを取らないことが最大のリスクなのに、そこから目を背けている。
【津坂】同感です。やはり危機意識が希薄な気がします。英語では「out of the box thinking(箱の外の思考)」と言いますが、グローバルな競争に勝つためには、従来の枠にとらわれない発想で物事に取り組む必要がある。言い換えれば、既存の秩序を壊していかなければならないのです。戦後、日本人は必死に働きました。いまより英語が苦手だったのに、「馬鹿野郎、売り上げが立つまで帰ってくるな!」と会社に言われて、海外を飛び回った。電機、自動車、商社、銀行、いずれもそうです。60年代までの日本は必死に頑張る国でしたし、素晴らしいイノベーターもたくさんいました。
市川海老蔵はハーバードなら合格
【茂木】僕は東大理学部を卒業してから、東大法学部に学士編入したのですが、その同級生たちには失望しました。自分の将来について、「大蔵省に入って、3年後には地方の税務署の署長になって、地元の名士の娘と結婚して、官僚のうちはあまり給料を貰えないから妻の実家のお世話になって、天下りを2回して、退職金をたくさん貰って――」といった話を真顔でするからです。この学部はもうダメだとつくづく思いました。津坂さんは高校卒業後にハーバード大学に進み、現在は日本の「ハーバードクラブ(同窓会組織)」の役員をお務めです。東大とハーバードの違いとは何なのでしょうか。
【津坂】ハーバードの教育のすべてがいいと言うつもりはないのですが、ほとんどの授業が議論の中で進められます。「正解は何か」を求めるのではなく、「よりよい結論に至るプロセス」が学びの中心に据えられているからです。