i.JTB 代表取締役社長 
今井敏行

2強との差を埋める施策の一つが商品力の強化だ。富士山が世界遺産に認定されたときには、事前に準備を整え、発表と同時にどこよりも早く関連セールを実施した。この例に見るような、Webならではのスピードを生かした品揃えの充実を図ると同時に、検索しやすく反応がよく、わかりやすいユーザビリティの実現と、販売促進にも力を注ぐ。

「まずはリスティング広告ですね。費用はかかるが極めて手っ取り早い販促です。リターゲティング広告(過去に訪問したことのあるユーザーの行動を追跡し、他サイトの広告枠上で同じ広告主の広告を表示させる手法)を強化することも欠かせない。販促では、エクスペディアやNTTドコモと提携して販売していますが、アライアンスを組んでJTB商品を販売してもらうことも進めていきます」

Webマーケティングの専門用語を駆使する今井は、聞けばi.JTBへの異動が決まると、ITの専門学校に3年間通ったという。わからない用語など、部下に聞けばいくらでも丁寧に教えてくれるはずだ。だが、それでは会議が長くなり、迅速な意思決定の足かせになる。日進月歩で新しくなる技術を吸収した今井は、休みの日も1日PCを見てはサイトに使えそうな情報の収集に時間を費やし、「これは」と思えば、即座にコンテンツ作成を指示し、ホームページに反映させている。効果はてきめんだった。i.JTBの社員は200人で1200億円を売り上げる。生産性の高さも、スピード経営も、JTBとは明らかに異質だ。

もっとも、今井はリアル店舗の必要性を否定しない。

「主力商品の『ルック』を購入するお客様の半数ぐらいは、ネットで申し込んでから3日以内に自分が指定した支店で内金を払うという方法を選んでいます。カード決済が嫌な方は一定数おられるんですね。学生さんも3人で旅行に行く場合、誰もカードを持っていないかもしれないし、1人の代表者のカードから全員分が引き落とされるのは困るという場合もある。店頭で説明を受けた後、ネットで申し込むケースも多いんです。ここ数年で、ネットとリアルとをシームレスに行き来する動きが増えてきた。だから店頭というのは絶対なくならないんですよ」

eコマースにかつて難色を示してきた店頭も、ネット経由の客が多いことを前向きに受け止め始め、店頭でたまるポイントと、JTBのサイトでたまるポイントの一本化がようやく実現に至った。だが、「楽天トラベル」も「じゃらん」も手をこまねいてはいまい。個人旅行者をいま一つ取り込みきれないi.JTBの弱点も改善されてはいない。追撃が本格化するのはこれからだ。

「店頭は絶対になくならない」。i.JTBの今井はこう断言した。だが、JTBグループには800を超える店舗があり、その数は徐々に減っている。旅のスタイルが変わり、Web事業が拡大しているいま、店のあり方もこれまでとは当然異なってくるはずだ。