12項目のうち11項目が現実に
それは、以下のような予言めいた項目だ。
・航行の妨害
・移住問題
・土壌汚染問題
・水質悪化
・発電不足
・気象異常
・地震の頻発
・住血吸虫症(寄生虫病)の蔓延
・生態系の悪化
・上流での深刻な洪水
・最終的にはダムを爆破せざるをえなくなる
だが、黄の警告は黙殺された。反対派のあらゆる言論はなかったものとされ、論文や公の発言すら妨げられた。1992年4月の全人代採決で、三峡ダム建設は賛成多数で可決されたが、反対・棄権・無投票を合わせると3割近くに達し、全人代史上でも異例の低さだった。
政権がいくらお膳立てしようが、懸念を拭えない者が多かったことの何よりの証左だろう。
黄は2001年に90歳で世を去るが、死の直前まで「三峡ダムは絶対に造ってはならない」と訴え続けた。そして現在、彼が予言した12項目のうち、実に11項目までもが現実のものとなっている。
崖崩れ、地滑り、ダム決壊が相次ぐ
三峡ダムにおける第一のリスクは、構造そのものの脆さにある。
三峡ダムは、全長2335メートル、高さ185メートル、貯水量393億立方メートルで、世界最大級の水力発電所を擁する、まさに規格外の構造物である。
ところが、完成前の2003年、試験貯水が始まると、周辺で崖崩れと地滑りが頻発しはじめた。同じ年、ダムのコンクリート面には80カ所もの大きな亀裂が発見されている。
2008年末までに確認された崩落箇所は132カ所、総距離33キロメートル、崩れ落ちた土砂量は約2億立方メートルに達した。その後の詳細調査では、地盤の変形などの異常が5386カ所で発見されている。
ドイツ在住の水利専門家・王維洛氏が収集した学術論文群でも、ゲートの亀裂、基礎岩盤への水の浸透、コンクリート中の鉄筋不足という三つの懸念が指摘されている(なお、2019年以降ネット上で拡散した「衛星写真によるダムの変形」は、Google Earthの画像の歪みによるデマと見られる。批判は事実に基づいてこそ意味を持つ)。
中国水資源機関の報告によれば、1954年から2003年の間に決壊したダムは3484基、年平均71基に及ぶ。実に5日に1基のペースだ。冒頭で触れた六藍ダムの決壊は、その一事例にすぎない。
実際、現在も、築66年の老朽ダムが豪雨で崩れ、村を飲み込んでいる。維持管理能力の欠如という中国の「宿痾」はいまだ克服されていないのに、専門家の警告を無視して長江の断層帯近くに建てた巨大ダムが、この三峡ダムである。

