もし三峡ダムが敵に狙われたら…

ここまでは、黄万里が予見した「自壊」の側面である。だが三峡ダムには、彼の予言リストにはない、もうひとつの巨大なリスクがある。軍事的標的としての脆弱性だ。

アメリカ国防総省は2004年の議会報告書で、台湾が三峡ダムのような「高価値標的」への信頼できる脅威を提示することで中国の軍事的威圧を抑止しようとしている、と明示的に記述した。

中国外務省は「冷戦的思考」と激しく反発したが、戦略的論点としての有効性まで否定することはできなかった。台湾では1990年代からこの選択肢が軍事戦略として議論され、淡江大学の戦略研究者は「ミサイル2発で破壊できる」とまで公言しているという。

崩壊シミュレーションの試算は壮絶だ。

ダムが破壊すれば、393億立方メートルの水が一気に解放される。専門家の非公式の試算では、洪水波がダム直下の宜昌市(人口400万人超)に約1時間、武漢(1000万人)に約10時間で到達するとされる。下流の長江流域には4億人以上が居住しており、被害規模は核攻撃に匹敵すると表現する分析者もいる。

平たく言えば、三峡ダムが崩壊させられれば、数億人の生活と、中国経済を支える無数の産業拠点が一挙に破壊される。万年渇水に苦しむ中国北部への影響と合わせれば、まさに「ダム1つの崩壊で、国家が崩壊する」といっても過言ではない。

ミサイルで対抗しようとする人民解放軍

注目すべきは、中国自身がこのリスクを痛切に認識している点だ。中国の一部の安全保障専門家は、三峡ダムへの攻撃を「核に準じる行為」と位置づけ、核兵器不使用(NFU)政策の例外適用を検討すべきだと主張している。

これは、中国政府がこの巨大ダムの脆弱性の深刻さを理解していることを示している。人民解放軍はダム周辺にミサイル防衛システムと対空ミサイル網を配備し、飛行制限区域を設けているとされる。「国家の誇り」として建設された構造物が、その巨大さゆえに、守るために莫大なコストを要する「国家最大の弱点」になってしまった。

習近平が武力による台湾併合に踏み出そうとするとき、この脆弱性は彼の頭にあるだろうか。もしないとすれば、国家のトップとして失格である。