勝因は何か

10月3日、モーリタニア国立サバクトビバッタ研究所で、博士は愛用のタフブック(砂漠環境下でも使えるパナソニックの頑丈なノートPC。貯金をはたいて買ったので予備機はない)を立ち上げた。博士は、白眉事務局からメールが届いていることに気づく。

【前野】「審査結果について添付ファイルの通りお知らせいたします」というメールが来て、ドキドキしながら開いてみたら《内定》と書いてあったので、合格したのだとわかりました。

博士は面接を受けたその日、京都から戻る新幹線の中で「白眉に受かりたい」と初めて祈ったという。「どう考えても最高の環境なんです。白眉に受かったらこういう研究がしたい、ああいう研究もしたい。毎日、そればかり考えていました」と博士は語る。

京都大学がウエブで公表した直後に自身のブログで報告すると、大量のお祝いのコメントが寄せられた。応募総数644名、合格者数20名、倍率32.2倍の超難関を、バッタ博士・前野ウルド浩太郎は突破した。博士、勝因は何だったと思いますか。

【前野】モーリタニアで、3年、頑張ったことだと思います。それが最大の勝因だと思います。その間も、国内の大学とかからポスドクや准教授で働かないかと声をかけてもらったりもしてたんですけど、そっちは自分でなくても替えが効く。でも、モーリタニアでバッタ研究ができるのは自分しかいない。「無収入になっても前野はバッタの研究がしたいんだ」という意思を見せたかった。ああ、そこまでしてやる気がある奴だったら採ってみよう、と京大に認めてもらえたんだと思います。それが、嬉しかったですね。

●次回予告
白く塗った眉はスルーされたが、バッタ博士は見事に京大白眉プロジェクトの内定を獲得した。おめでとう、バッタ博士! だが、ほんとうの戦いはこれからだ。とりあえず給料はいくらなのか。やりたい研究をほんとうにやれるのか。定期収入を得て油断しちゃったりしないのか。そして、内定式のあとに博士は何をやらかしたのか。研究者・前野ウルド浩太郎へのインタビュー《帰ってきたバッタ博士[後篇]》(明日、12月18日9:30更新予定)、乞うご期待。

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