「京大も飛び道具を欲しがっているんじゃないかと」

前野ウルド浩太郎
(まえの・うるど・こうたろう)
1980年、秋田県生まれ。弘前大学農学生命科学部卒。神戸大学大学院自然科学研究科博士課程修了。博士(農学)。2008年、日本学術振興会特別研究員を経て、2011年、日本学術振興会海外特別研究員としてモーリタニア国立サバクトビバッタ研究所に赴任。同年、日本応用動物昆虫学会奨励賞、井上科学振興財団奨励賞受賞。2012年、山下太郎学術研究奨励賞受賞。2013年、日本-国際農業研究協議グループ(CGIAR)フェローとして再赴任。2014年4月より京都大学白眉センター年俸制特定助教に着任予定。著書に『孤独なバッタが群れるとき-サバクトビバッタの相変異と大発生』(東海大学出版会、2012年)。ウエブサイト「砂漠のリアルムシキング」 http://d.hatena.ne.jp/otokomaeno/(写真提供:前野ウルド浩太郎)

バッタ博士が京都大学白眉プロジェクトに応募した書類には、発表論文25本、著書2点(含む共著)の名が記されている。特筆すべきは「招待講演」の項目に記されている以下3件だ。

1.「ニコニコ超会議2 第4回ニコニコ学会β むしむし生放送(2013)」(2013年4月27日、幕張)
http://live.nicovideo.jp/watch/lv133705212
(要ログイン。バッタ博士のプレゼンは5時間37分目から)
2.「ジュンク堂書店池袋本店 バッタ博士のトークショー」(2013年4月11日、池袋)
http://www.nicovideo.jp/watch/1367927697
3.「第4回ニコニコ学会βシンポジウム報告会&『進化するアカデミア』出版記念トークセッション 本屋B&B」(2013年5月12日、下北沢)
http://live.nicovideo.jp/watch/lv136864468(放映終了)

いずれも一般の聴衆を対象としたイベントだ。博士はモーリタニアの民族衣装を身にまとい、現地で収録したバッタの動画と写真をスクリーンに映しながら、バッタ研究の面白さを語る。聴衆はバッタの生態に感嘆し、博士の話しっぷり(自虐ネタ多し)に何度も爆笑する。世間一般が考える「学者先生の講演」はお堅く単調なものだろうが、バッタ博士のそれはまるで異なる。知的興奮と笑える楽しさ、その両方がある。

【前野】白眉プロジェクトも今度で五期目、京大もそろそろ色物、飛び道具を欲しがっているんじゃないかと。白眉の名を宣伝する能力も求められるのではないかと。

博士は「飛び道具」と言うが、世にはアウトリーチ(専門家ではない一般の人に向けて、研究の面白さと意義を広く知らせる活動)ということばがある。博士が記した3つの招待講演はまさにそれだ。京大に提出される(しかも人生を賭けた採用試験の)書類に「ニコニコ」「むしむし」という文字を記したのは、ネットをアウトリーチのために使い倒す研究者・前野ウルド浩太郎が初だろう。

【前野】自分の世代はたぶん、ブログや Twitter, ニコニコを使う最初の研究者なんだと思います。上の世代の人たちからは「何遊んでるんだ、真面目に研究しろ」的なことを言われるんですが。

だが、ニコニコ超会議2の講演は2日間で8万5000人が閲覧し、池袋や下北沢での講演も満席。バッタ博士のアウトリーチ能力の高さは実績で証明されている。それが決定打になったのかどうかはわからないが、7月中旬、アフリカはモーリタニアの博士のもとに書類審査通過のメールが届いた。

【前野】国際学会の準備とかで忙しくて(注・連載第10回《砂漠のプレゼン特訓》参照 http://president.jp/articles/-/10553)、白眉を受けたことを忘れていました。

8月25日、京都大学で白眉の面接が行われた。モーリタニアから日本への移動は当然おカネがかかる。だが、日程は博士に味方した。8月11日~15日に中国・昆明で行われた国際バッタ学会を終えた博士はその足で日本に帰り、京都へと向かう。研究者人生を賭けた勝負の時が来た。