日本の「パブリックコメント」との決定的違い

この提案は、賛成派にも反対派にも受け入れられました。

80パーセント以上の参加者が同意したのです。

ここで大切なのは、台湾政府が最初に「80パーセント以上の同意が得られた提案は、必ず政策として検討します」と約束していたことです。

日本でも、「パブリックコメント」といって、政府が国民の意見を募集することがあります。

ただ、その意見がどうなったか、あまり聞いたことがありません。意見を出しても「吸い込まれて終わり」という感覚がぬぐえません。

台湾では違いました。市民の意見がちゃんと政策に反映されたのです。

その結果、「自分の声が届く」という実感を一人ひとりが持てました。

吹き出しのトーク記号
写真=iStock.com/oatawa
※写真はイメージです

これが、本書でお話しした「無力感」の問題を解決する方法のひとつです。

ここで、もうひとつ大切なことをお伝えしたいと思います。

PLURALITY』をオードリー・タンさんと一緒に書いた経済学者のグレン・ワイルさんは、こう言っています。

「社会を動かす本当の力は、共通知にある」

「共通知」をつくる技術

共通知というのは、ただ「みんなが知っている情報」のことではありません。「みんなが同じものを学んでいる」と互いに確信できている状態のことです。

ワイルさんは、例として聖書の勉強をあげます。人々がそれぞれ自分の家で、ひとりで聖書を読んでいる。一見、それは個人的な営みに見えます。

けれども、みんなが「同じ本」を読んでいるという事実が、共通の知をつくっています。

違う場所、違う時間に勉強していても、聖書という共通のテキストが背骨にあるからこそ、お互いが何を考え、何を信じているのかを推測できるのです。

ところが今、AIによってこの構造が崩れつつあります。AIが私たち一人ひとりに合わせて情報を出し分けることで、見えている世界が人によってバラバラになっていきます。同じ「本」を読んでいるつもりなのに、中身が一人ひとり違う。「自分が見ているもの」と「他の人が見ているもの」が違っていることに、気づかないまま生きるようになるのです。

共通の背骨が失われたとき、私たちは何を一緒に決められるのでしょうか。これが、AI時代に直面している深い問題です。

だからこそ、共通知をつくる技術が必要になっています。Pol.isが行っているのは、まさにこれです。バラバラに見えていた声を集めて、「実はこんなに多くの人が同じことを考えていた」と目に見える形にする。市民が動き出すのは、共通知が生まれた瞬間からです。