みんなで踊ってイノベーション!?

この「恋チュン社員ダンスPV」が新しい組織開発活動として秀逸な点は、「敷居の低さ」と「ダンスを踊る」ところにあります。

まず「敷居の低さ」ですが、このPVは、ダンスシーンを細切れにつないで構成しているというのがミソです。ダンスを1曲分習得するのは難しいですが、一部分だったら、ちょっと練習すれば踊れます。つまり運動会や旅行よりははるかに敷居が低く、誰でも参加可能なのです。

また、職場で「ダンスを踊る」ことは、いつもとは違う非日常的な時間をもたらします。神奈川県庁では、「課長、ダンス下手ですね(笑)」と若手職員が年配職員を指導。いつもと立場が逆転するような場面もあり、和やかな雰囲気が生まれたとのこと。「職場の連帯感が生まれた」「普段はあまり話さない同期と話ができ、仕事のモチベーションが上がった」「今まで話したことがなかった人と話すことができた」(神奈川県庁)など、職場のコミュニケーションの活性化にもつながったようです。

そして、全職場のダンスをつないだPVには仮想の祝祭空間が生まれ、社員たちは皆「同じダンスを踊った仲間」となります。サイバーエージェントでは「ジャカルタオフィスから『PVに参加したことで、現地社員のグループ内での一体感が増した』という声がありました」とのこと。さらには「『お父さんの職場って楽しそうだね』と家族との会話も弾んだ」など、社員の家族向け会社見学会のような効果もあったようです。

さらに言えば、「社員ダンスPV」は、革新的な商品・サービスを生み出す風土とも全く無縁ではありません。

革新的な物事を生み出す組織には、非合理的なものを受け入れられる耐性が必要だと言われています。「歴史的に重要な合理性ほど、非目的的で非合理的なものに支えられて誕生している」(マックス・ウェーバー)という言葉もあるように、状況が刻一刻と変化していく世の中において、むしろ非合理的な選択が革新的な創造という成果につながる場合もあるからです。そう考えると、「得体の知れないダンスに挑戦できる組織」かどうかは、組織の中の非合理性耐性を診断する手段とも解釈できます。もちろん、ダンスをしさえすればイノベーションが生まれるわけではありませんが(笑)。