交通事故による損害は、大きく積極的損害と消極的損害と慰謝料に分けられる。積極的損害とは、治療費や通院交通費など、いわば被害者が出費を余儀なくされた実費の損害であり、消極的損害とは、事故がなければ得られたはずの利益(休業損害、逸失利益)をいい、これに肉体的・精神的苦痛に対する被害に基づく慰謝料が加わる。

「パワハラの場合、一般に積極的損害はそれほどの額にはなりません。額が大きいのは消極的損害のほうですが、実はそれも……」

事故による逸失利益は、被害者の年収に、労働能力喪失率(失われた労働能力を%で示したもの)、労働能力喪失期間(働けなくなった期間)に応じた一定の係数(ライプニッツ係数)を掛けて算定される。

後遺障害は、重い順に第1~14の等級で規定されており、各々の級数に対応する形で労働能力喪失率が定められている。たとえば、35歳で年収約600万円の人が事故による障害で、以後30年間まったく働けなくなった(第1~第3級)となれば、労働能力喪失率は100%で、逸失利益は1億円近くの額になる。

しかし、セクハラ、パワハラで受ける精神的な障害の場合、等級は最も低い第14級(「局部に神経症状を残すもの」)が認められるだけのケースがある、労働能力喪失率は5%。前出の例なら、仮に30年以上働けなくなったとしても、認められる金額は500万円程度。うつ症の場合、労働能力喪失期間が数年間しか認められないケースも多く、数十万円を得るために多大な時間とお金を費やすことになってしまう。後遺症慰謝料も同じ14級で算定されるから、100万円取れれば御の字といったところだ。

セクハラ・パワハラを受けたことじたいに対する慰謝料も、期待する金額に達することはまずない。