転職未経験なのに「4社目」という激変
大企業からベンチャーまでが鎬しのぎを削り、生存競争の著しい通信業界にあって、某社の営業セクションで課長職にある40歳のA氏は、一度も転職を経験していないにもかかわらず、勤務先の合併が度重なり、現在の会社は4社目となっている。住野氏の指摘を裏書きするように、「時間軸が早まりましたね」と苦笑する。
「最初の会社に就職したとき、サラリーマンは30年かけて花開くと思っていた。それが、社内も業界全体も、めまぐるしく変わるようになった。こんなはずじゃなかったのに、という思いがあります」
合併に伴って、給料やボーナスが減り、やる気が萎えた。そうかと思えば、賃金体系統一という名のもと、逆に年収が増えたこともある。組織変更と人事異動が頻繁になり、新しい部署や未経験の仕事に馴染めずに辞めていく人も少なくない。
「プライドが高い人や待遇に不満のある人だけでなく、コネで入社した、いけ好かないボンボンも、だんだん辞めていきました。サラリーマンとして生き残りがかかっているのだから、未知の仕事ではあっても、不平をいわずに努力するのは当然です。僕は、いろんな部署を経験することで、サラリーマンとしての武器が増えていくと考えるようになりました」
A氏の表情は、むしろ明るい。
社内の飲み会では、「どこの出身?」と元々お互いがいた会社を訊ねるのが挨拶がわりになった。やがて、「いま辞めるのは不利だよね」と意見が一致する。経費の削減が徹底され、交通費も前例の踏襲(とうしゅう)は通用せず、全面的に見直せと上司がうるさい。辟易するが、出張には夜行バスしか認めない会社もあると知り、自分は新幹線に乗れるだけましだと思う。社外の人とも積極的につきあって視野を広げ、負の思考に陥らぬように心がける。A氏は、「楽しまなきゃね」と笑った。
人間到るところ青山(せいざん)あり。サラリーマンにとって、会社もまた青山である。