今年の秋までは「減産の見通し」

第1に、増産までのタイムラグである。米国の石油企業が増産投資を決定してから、新規掘削を行い、油井に仕上げを施して、実際に原油を産出するまでには少なくとも半年以上の期間が必要である。

米エネルギー省(DOE)に属する統計・分析機関である米エネルギー情報局(EIA)は、米国および世界のエネルギー生産や消費、価格等についての様々な統計や予測を発表している。

そのEIAによる最新の予測では、足元の原油高による増産効果が発現するのは今秋以降となる見通しである(図表1)。同予測によると、戦争勃発前の油価低迷を背景に、9月にかけて米国はむしろ減産を行うと見込まれている。米国の企業が石油を新規掘削する際の採算をとるのに必要な原油価格は65ドル程度とされているが、戦争勃発前の1~2月の原油価格は50ドル台後半~60ドル台前半で推移してきた。採算割れが続いてきたことで、戦争開始前に減産を決めていた石油企業が多く、こうした減産効果が9月にかけて発現するとみられる。

【図表】米国の原油生産量の見通し(4月時点)

増産余力は「統計開始以来の最低水準」

第2に、増産余力の低下である。

石油の生産には大きく分けて「掘削」と「仕上げ」の2つの段階がある。

「掘削」とは、文字通り、石油が埋蔵されている地層に至るまで、ドリルで地面を掘る作業である。

ただ、穴を堀っただけでは石油を得ることはできない。次の「仕上げ」の段階において、実際に石油を汲み上げるための作業を行う必要がある。

石油企業は、石油の市場価格が低くて売っても儲からない場合、しばしば「掘削」までで作業を止めることがある。こうした「穴を堀ったものの石油を汲み上げずに放置している」油井のことを「DUC(Drilled but Uncompleted)」と呼ぶ。

石油企業は、新規掘削を行わなくても、実質的な在庫とみなされるDUC(掘削済みだが仕上げが済んでいない油井)を取り崩すことで生産量を増やすことができる。しかし、DUCの数は、足元で統計開始以来の最低水準に減少しており、石油企業がDUCに仕上げ工程を施すことで短期的に生産量を増加させる余地は縮小している(図表2)。

【図表】米国のDUCと新規掘削油井