漢方薬と珍味のために殺される命
ただ事実関係を行政に通報し、警察にも伝えられた。だが、警察が指摘した犯罪事実は「銃の目的外使用」だけであり、県は「鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律」のどれにも該当しないこととした。この法律に関わったことがある私には納得できたが、非常に不快な出来事であった。
そのハンターはこの村(旧吉和村、人口870人)の関係者で、私が山深くで調査捕獲を行なっていることを知っており、私を追跡すれば「クマにありつける」と思ったのだそうだ。このようなクマの密猟は西日本で多発していた。胆嚢は「クマノイ」であり、左手は中国北東部に住む朝鮮民族の珍貴な料理であって、日本では関西を中心に西日本で需要が多いからだ。
環境庁は西日本17県のクマを狩猟禁止にした。そもそも、クマノイとは何か。熊類の胆嚢はクマノイと表記されて漢方・民間医療で用いられ、捕獲に銃を用いることが困難な時代には、この強獣を部落全員の力を結集して捕獲して高額で換金するなり、自分たちの医療に用いていた。また封建時代には権力者が強権的に収集し、さらに上部の支配者に献納していた。
近代でも新聞に捕獲の事実とともに獲ったクマがいくらで売れたかが書かれた記事が多数見られ、所有を巡って悲喜こもごもの事件が起こっている。クマノイの【イ】は胆嚢の意味なのだが、昭和期までの新聞、雑誌には「クマノ胃」の誤記が多数見られる。
現代まで続くクマ取引の法的グレーゾーン
そのため事情を知らない市民は本当に【クマの胃袋】をつかまされた例もありそうだ。春グマ狩りで捕ったクマは、まだ採食していないので胆汁は溜まり胆嚢は大きい。四角い板に挟んで囲炉裏の上で風乾する。現代ではクマ科の動物は全種がワシントン条約で国際的な取引が規制されており、クマから取れる胆嚢も同様だ。
一方、国内取引の規定はなく、個人で自家消費する分には問題はないのだが、漢方としての効能をうたって販売した場合は「薬機法」に抵触する可能性がある。最近、ネット上のフリーマーケットに出回って問題になった。
その由来は、現代では有害駆除によるものではなく、個人による狩猟が多く、一部は先の例のような密猟由来の物も存在するだろう。
では、歴史的にクマの値段はどのように推移したのか、明治、大正、昭和の例を挙げる。
なお、新聞に掲載されているクマの値段を米価に換算するに当たって参考にできるのは生産者価格、政府買い入れ価格、店頭価格などさまざまあるが、この間を比較できる生産者価格を用いる。


