殺人事件数は「ピークの3分の1」

理由を探るために、日本における殺人事件の現状を確かめよう。警察庁の犯罪統計資料によれば、2025年の殺人の認知件数は976件で、前年(2024年)の970件より6件増えている。しかし、京都大学大学院教授の岡邊健氏によれば、認知件数のピークは1954年の3081件である。昨年は、その3分の1以下にまで減少している。

加えて重要なのは、その被疑者と被害者の関係である。2024年に起きた970件の殺人事件のうち、既遂=殺された事件は286件ある。検挙された220件のうち89%にあたる196件が「面識あり」、つまり、何らかのかたちで知っているというのが、被害者と被疑者の関係である(「令和6年の刑法犯に関する統計資料」警察庁、2025年8月)。

さらに、その196件のうち110件が親族、さらに、そのうち40件が「親」で最多である。あえて単純化すれば、日本で極めて少なくなった殺人事件のうち、被疑者になる確率が最も高いのは「親」なのであり、逆に言えば、「親」に殺される恐れが最も高いとさえ言えるのではないか。

それほどまでに、私たちの生きる社会は、おそらく古今東西の歴史上、とても珍しいほどに安全になっており、その反面、命を失うとすれば、「親」という極めて近い他人によるとすら考えられるのである。

遺体発見現場付近に集まった京都府警の捜査員ら=2026年4月14日午前9時12分、京都府南丹市
写真提供=共同通信社
遺体発見現場付近に集まった京都府警の捜査員ら=2026年4月14日午前9時12分、京都府南丹市

「安全な社会」ゆえに際立つ異常性

先月、東京・池袋の「ポケモンセンターメガトウキョー」で起きたストーカー刺殺事件のように、元交際相手が被疑者となった殺人は220件のうち22件、元配偶者が3件、といずれも「親」よりも少ない。少ないからといって安全であるわけでも軽視して良いわけでも、もちろん全くない。ただ、データの上からは、元のパートナーよりも、はるかに「親」に殺される危険性のほうが高い。

加えて、今回の安達結希さんのように、ご遺体が捨てられる事件に至っては、殺人よりもさらに稀と言えよう。警察庁による「令和5年における死体取扱状況について」という資料によれば、日本全国で同1年間に警察が扱った死体は全部で19万8664体あり、そのうち「犯罪死体」=事件だとされたものは354体である。先に見た「殺人」の既遂220件よりは多いとはいえ、それでも、死体遺棄事件となると、日常からは、かけ離れているのではないか。

全体の傾向としては、日本での殺人事件は大きく減っている。減少する殺人のうち、割合では「親」が増えている。他方で、小学生が行方不明になり、なおかつ、ご遺体で見つかる、という事件は、きわめて珍しい。ここにこそ「元警察官」が求められた背景があるのではないか。