『るろうに剣心』と「そばかす」

しかし、こうした成果に結びつくアニメタイアップは、それまで非常にまれだった。

アニメソングの歴史は古い。『鉄腕アトム』など1960年代の黎明期から主題歌が親しまれてきた。1980年代には杏里の「CAT’S EYE」やTM NETWORKの「Get Wild」などタイアップの主題歌がヒットした。1990年代に入ると多くの人気アーティストがアニメ主題歌を手掛けるようになる。しかし、その中には作品の世界観やストーリーと密接に結びつく楽曲は決して多くはなかった。むしろアニメの内容と歌詞の内容やテイストがチグハグなものもあった。

たとえば『るろうに剣心―明治剣客浪漫譚―』の初代オープニングテーマだったJUDY AND MARY「そばかす」はその有名な例だ。バンド最大のヒットとなったこの曲。ただ「おもいきりあけた左耳のピアス」など、歌詞が描く情景は『るろうに剣心』の世界観や登場人物とはかけ離れている。

なぜそうなったのか。リーダーの恩田快人に、この曲について話を聞いたことがある。彼は楽曲制作の経緯をこう語っていた。

「3枚目の『MIRACLE DIVING』というアルバムを作り終わったときに、確かソニー・ピクチャーズが初めて手掛けた『るろうに剣心』というアニメのタイアップ曲をお願いしたいという話が来たんです。そこで急遽作ることになったんですね。タイアップありきだったし、スタッフの皆さんから『JUDY AND MARYらしい、はじける、パワフルで楽しい曲を』とも言われて。1週間くらいすごく悩みました」(音楽ナタリー「ろん『ろんかば―J-POP ZOO―』特集 ろん&恩田快人インタビュー」2015年8月25日掲載)

テレビ露出の「機会」だった

制作時間も短く、かつアニメ主題歌であることを踏まえたオーダーは与えられていなかった。だからこそ恩田は「JUDY AND MARYらしい曲」を書き下ろした。「『そばかす』では、もう一度YUKIちゃんにパワフルではっちゃけた、元気な感じを出してほしいって、歌入れのときにお願いした記憶がありますね」と恩田は語っている。

この時代のアニメ主題歌タイアップは、作品の「主題」を表現するものではなく、あくまでテレビ露出の「機会」としてしか捉えられていなかった。そもそも90年代のCDバブル全盛期、多くのタイアップは商業的な戦略の賜物だった。アニメだけでなく、CMやドラマにしても、とにかくテレビで繰り返し曲を露出させ、それによって曲の知名度を上げてヒット曲を生むという方法論に重点が置かれていた。

テレビおよびビジネスマン
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