バンドの音楽性を更新するきっかけに

『君の名は。』での共同制作は、野田洋次郎にとってもバンドの音楽性を更新する大きなきっかけになった。筆者はこの年、野田に取材する機会があった。そこで彼はその実感をこう率直に語っている。

「この作品で新海さんと一緒にやったことは本当に大きかったです。それまで自分を客観的に見ていたつもりはあったんですけれど、RADWIMPSという存在、野田洋次郎という存在が他者からどう見えてるのかも初めてちゃんとわかった気がする」(『ダ・ヴィンチ』2017年1月号)

特に大きかったのは、物語の骨格を担う楽曲として新海監督から「ど真ん中」を求められたことだと言う。

「歌詞にしても曲にしても、僕が持っていくものに『もっと真ん中がほしい』と言われたんです。僕が抱いているメジャー感はだいぶ端っこに来てしまってたのかな、みたいな思いはちょっと生まれましたね」

アニメーション作家とロックバンドの創造性が結びついた

『君の名は。』の主題歌4曲は全てラブソングだ。公式サイトへのコメントで野田自身がそう明言している。特に「前前前世」には、少年と少女が抱く瑞々しい恋愛感情、思いを寄せる相手に恋い焦がれる気持ちが鮮やかに描かれている。デビュー当初の彼らには「有心論」などそうしたラブソングの代表曲も多かったが、キャリアを重ねるにつれてより哲学的、社会的なメッセージを持つ曲も増えていた。主題歌は、バンドにとって、いわば原点回帰の作風でもある。「頑なに譲らない監督として、新海さんがそういう場所に連れて行ってくれた」と野田は言う。

「だから今の自分なりに、期待されるものと符合する場所を探した。そういう中で発見も一杯ありました。自分だけだったら歌わないだろう歌詞も沢山書いたんです。でも、歌っているうちに『ああ、どこかでこういう言葉を歌いたかったのかもしれない』とも思った。聴かれる喜びをもっと大事にしていきたいという、当たり前のことを思うようになったんです」

ただ単に映画とその主題歌がヒットしただけではない。新海と野田は互いにポジティブな影響を与え合っていた。両者の間には、これを機に深い信頼関係とクリエイティブな協働関係が生まれた。「タイアップ」とは、本来「結びつける」という意味である。

『君の名は。』は、商業的な要請だけでなく、アニメーション作家とロックバンドの創造性が本質的に結びついたアニメタイアップとなった。そのことに最も大きな意義があった。

劇場の人々の後ろ姿
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