育児にかかわる時間は減っているのか
これを聞いた時、道枝の考えの対極にあるのが、子育てに関する最近の風潮だと思った。
やまなみこども園の取材をはじめる少し前、私は現代の子どもたちの生育環境についてのノンフィクションを執筆するために、全国の保育現場に足を運んで話を聞いて回った。それらの園の管理職の8割以上が異口同音に語っていたのが、現在の保護者の育児にかかわる時間がかつてと比べて大幅に減っているという実態だった。
日本で合計特殊出生率が低下の一途をたどるようになったのは、1970年代の第二次ベビーブームが終わってからだ。
女性の社会進出が進む一方で、職場環境が整っていなかったり、晩婚化が進んだり、ライフスタイルが変化したりするなど数多の要因から、少子化に歯止めがかからなくなっていった。そのため、厚生労働省によれば、1970年には2.13だった合計特殊出生率は、2024年には1.15にまで下がっている。
こうした社会では夫婦がせっかく子どもを授かっても、世間から歓迎してもらえるとは言い難い。子どものいる社員に対して“子持ち様”“育休様”と揶揄する声が上がって出産前と同等の仕事量をこなすよう圧力がかかったり、外出先、あるいは公園ですら親の監督責任が厳しく問われたりするのはその端的な例だろう。
育児の「分業化」が進んだ理由
しかしどんな保護者であっても初めは子育ての素人であり、仕事と家事の両立はもちろん、育児を完璧にこなすことなどできるわけがない。そこで保護者たちの間で子育てを園に任せる傾向が強まっていったそうだ。園の力を借りながら共に子育てをするというより、保護者はプライベートとキャリアを優先し、育児は園に一任するという「分業化」が進んでいったのだ。
事実、園に対する保護者からの要求は年々大きくなっており、休日保育、手ぶら登園(着替えなどすべてを園に用意させる)、朝昼晩の三食提供などが当たり前の地域もある。また、平日は園、休日は習い事など常に子どもをどこかに預けようとする家庭も増加しているらしい。
ある保育関連の全国組織の理事は、次のように話していた。
「十数年前まではまだ親の方にも園や習い事に子どもを預けることへの引け目みたいなものがあり、せめて朝夕の食事の時間くらいは、あるいは休日くらいは家族水入らずで過ごそうという空気がありました。
しかし近年、特にコロナ禍以降は、そういう風潮が少なくなりました。保育園が終わって帰宅しても、親と子どもがそれぞれ寝るまで別々のスマホを見て無言で過ごすのはもはや当たり前ですし、休日も託児施設や習い事に預ける家庭が珍しくありません」

