商社マン時代から、3Dプリンタの将来性に早くから目をつけて自らベンチャー企業を立ち上げた早野は、こんな自負を込めて、3Dプリンタへの思いを語る。

粉末焼結積層造形装置

「かつての大量生産の時代から多品種少量生産の時代が本格化すると、日本製品の国際競争力を維持するために、開発期間の短縮と生産コストの削減が必須条件になってきます。それには、どのような積層造形装置(3Dプリンタ)を生産材として利用するかが勝負のカギを握り、3Dプリンタの生産性がモノづくりの死命を制する可能性が出てくる。これから先を展望すると、プリンタの性能だけでなく、(3Dプリンタで使用する)新しい材料の開発も重要になってきます。いち早く粉末焼結で幅広い材料開発を手掛けてきた我々にとっては有利な世の中になる。今後も、日本に固有の技術を残していくために、この分野のパイオニアとして頑張っていくつもりです」

経済産業省もやっと乗り出した

とはいえ、3Dプリンタの製造は米国企業の独壇場で、ストラタシスと3Dシステムズの2社による寡占状態にある。これら2社を合わせた世界シェアは7割を超え、日本企業のシェアは、数%にすぎない。

3Dプリンタを使えば、チェスのコマなども簡単にできる。

かつてモノづくりの基盤を失いつつあったアメリカは、製造業復活を声高に叫び始めた。13年2月、2期目に入ったバラク・オバマ米大統領は一般教書演説を行い、3Dプリンタによる生産革新の方向性を強く打ち出したのもこの一環だ。

この新戦略に基づく研究支援予算の交付第1号案件に選ばれたのが、「全米積層造形技術革新機構(NAMII)」である。この組織には、政府と民間から計7000万ドル(約70億円)が投入され、政府関係5機関(国防総省、エネルギー省、商務省、全米科学財団、NASA)が全面支援している。構想を強力に推進するため、全米約1000の小学校に3Dプリンタを設置し、子供の頃から先端技術やデザインを学ぶプロジェクトも同時進行で進められている。

そんな奔流のような変革の波が押し寄せるなか、日本はどう対応していけばいいのか。経済産業省が主導する産官学による「3Dプリンタ開発プロジェクト」が来年度からスタートするが、オール・ジャパンの体制でこの荒波を乗り切らなければ、さらなるモノづくりの衰退につながるのは目に見えている。

(文中敬称略)

(宇佐美雅浩、永野一晃=撮影)
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