一人の人間が、善人になる日もあれば、悪人になるときもある。月見座頭は、人間の支離滅裂さを巧みに描いているのです。私たちだって似たようなもの。たとえば駅のホームで人と肩がぶつかったとき。「なんだ」と声を荒らげる日もあれば、「すみません」と頭を下げる日もあるでしょう。

見方を変えてみましょう。上司にたまたま悪口を聞かれてしまうとは、運が悪かったとしかいいようのない状況です。そして誰もが経験的に知っているように、悪いことは重なって生じやすいもの。

たとえば、強い賭博師は共通して、場の流れを読み、流れに従って動きます。赤と黒のルーレットで、赤が4回出たらそろそろ黒だろうと思って黒に賭けるのは素人の発想です。「プロ」は、5回目も赤に賭けます。プロは、その場の流れを感知します。赤が続くときには、次も赤が出る可能性が高いものだと、経験的に知っているのです。

何が言いたいか。つまり、不運な出来事に遭遇したときには、また新たな不運があなたを待っている可能性が高い。

人間は矛盾を抱えた存在である!
図を拡大
人間は矛盾を抱えた存在である!

そんなときは、まずは不運の連鎖を断ち切りたい。そのためには目の前のことを一つ一つ、片付けていきましょう。たとえば受け取りそこなった宅配便の引き取りでもいい。不運な状況に固執している自分の思考から、いったん離れてほしい。そしてあなたの気の紛れることに、時間を費してみてほしい。ペットと遊ぶとか、身近な家族との時間を取るとか。一人でいるよりも、何か別の存在と一緒にいるほうがいいでしょう。一人でいると、人間の思考は自然と悲観的な方向へ流れがちだからです。

そうしていくうちに、状況は自ずと変わってくるでしょう。そして次第に、あなた自身も「上司に聞かれた? 大したことじゃない」と思えるようになるでしょう。不幸が降りかかることは決して悪いことばかりとはいえないと思えるようになる。そういうことがあって初めて、相手と自分のあり方を考えるチャンスが与えられた、と考えるべきだと思います。3年も経てば、あの出来事があったから、自分は成長したのだと思うようになっていることでしょう。

※すべて雑誌掲載当時

(長田美穂=構成 増田安寿=撮影)