テクノロジーはすべてを資源化する

――うわぁ……。スマホに使われる人間かぁ。なんか情けないね。

いまから70年も前に、ある哲学者が「テクノロジーが進化すると、人間はただの『在庫』になる」と予言していた。それがここにつながるんだよね。

――人間が在庫? モノ扱いってこと?

その哲学者の名前は、マルティン・ハイデガー(注1)。20世紀を代表する知の巨人さ。彼はテクノロジーの本質を「ゲシュテル(総駆り立て体制)」(注2)という難しい言葉で表現したんだ。

――ゲシュテル? ドイツ語?

そう。「世界を『資源』として見る枠組み」のことさ。わかりやすく言うと、テクノロジーというメガネをかけると、世界のすべてが「役に立つか、立たないか」だけでしか見えなくなってしまう病気みたいなもの。

注1 マルティン・ハイデガー(1889ー1976)
20世紀ドイツの哲学者。主著『存在と時間』で知られる。後期の思想では、近代技術(テクノロジー)の本質を鋭く批判し、「技術は単なる道具ではなく、人間や自然を『利用可能な資源(用象)』として駆り立てるシステム(ゲシュテル)である」と論じた。AI社会となった現代において、その警告の重要性が再評価されている。

注2 ゲシュテル(Gestell)
ドイツ語で「架台」や「骨組み」などを意味する言葉だが、ハイデガー哲学では「集めること(Ge)」と「立てること(stellen)」を組み合わせ、「総駆り立て」や「集立」と訳される。自然や人間を、いつでも利用可能なエネルギーや資源として「徴発」し、管理・支配しようとするテクノロジーの本質的な動きを指す。

人間は「データ資源」

――どういうこと?

例えば、エナは「森」を見てなにを思う?

――え? きれいだなーとか、トトロがいそうだなーとか?

それが「人間的な」見方。森はそこに存在するだけで神秘的で、美しい。でも、テクノロジー(産業)のメガネをかけたとたん、森は「木材資源・500トン」に変わる。「どれくらい紙が作れるか?」「いくらで売れるか?」という、効率的に消費するための「在庫」にしか見えなくなるんだ。

森林伐採
写真=iStock.com/richcarey
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――あー……。自然破壊って、そういうことか。

そう。川は「水力発電のエネルギー源」になり、山は「レアメタルの採掘場」になる。ここまではまだいい。「自然」が資源になるだけだからね。ハイデガーが本当に恐れたのは、そのレンズが「人間」に向けられることなんだ。

――人間に向けられると……どうなるの?

いまのエナの状況だよ。「エナ」という個性的な人間が消えて、「10代女性、東京在住、ハンバーガーの購買意欲あり」という「データ資源」として扱われるようになる。