「始末の不在」を数値化で乗り切る

安森がよく口にする「勘定」という言葉は、ロフトの経営を任せられた安森に重くのしかかった現実でもあった。

「ロフトに行ってわかったのが、勘定に弱いということでした。まあ、西武はこの概念がなかったからおかしくなっていったんですけどね」

ロフトは西武百貨店の収益源と見なされていたが、ふたを開けてみると、売り上げ約70億円の渋谷ロフトは、14億円もの在庫を抱えていたことが判明した。商業統計によれば、コンビニの商品回転率は平均26回、百貨店でも13回。ロフトの5回という数字は、あきれるほど低い。オシャレで楽しげなロフトの実態は、回転しない眠れる在庫の山だった。

収支にうとく、新規事業をはじめるのはうまいが、ビジネスとして着地させられない。効率を考えない。西武百貨店が内包していた致命的な欠陥を、安森はユニークな表現でこう解説してくれた。

「あのね、三田村さん、商売には、才覚と算用と始末の3つが必要なんですよ。西武には才覚と算用はあった、ところが、始末ができなかったんですね」

この才覚、算用、始末とは何か。

才覚とは、企画やパブリシティなど話題性に富む試みだ。電鉄系の百貨店である西武は、三越や高島屋と違って歴史も伝統も看板もない。垢抜けない池袋の泥臭い百貨店に過ぎず、客からの信頼度、信用度では、他の老舗百貨店の後塵を拝していた。そこからのしあがり、百貨店業界の表舞台に名乗りを上げるための有効な手法が才覚だった。

才覚を用いて企画した事業をいかに確立していくか、マーケットをとらえ、そこにどうフィックスさせていくか、あるいはいかに客の半歩先を提案していくか。このプロセスが、安森の言う算用だ。

仕事として考えるなら、才覚、算用に携わるほうがずっと楽しそうではある。新しいアイデアを出し、マーケットの動きを読んで新規事業を立ち上げる過程は刺激的だ。話題性に富んだ事業を展開していくほうがやりがいはある。この才覚と算用が突出していたからこそ、西武百貨店は時代の寵児となり、売り上げ日本一を実現できた。

しかし、その後がまずかった。在庫を管理し、利益を出す仕組みがおそまつだった。効率を考えず、売り上げ至上主義に走った。収支を重視し、利益面を正しく評価をする経営陣がいなかった。

「始末の不在」に直面した安森は、ロフトを始末のできる会社に作り替えることを決意する。

まず手はじめに安森が着手したのは、経営者にとっては不快で、できれば聞きたくないような情報が上にきっちりと上がってくる仕組み作りだ。

売り上げ悪化、利益低下、客単価減少。こういった情報は上に報告しづらいのが人の常。それをどう変えるべきか。安森はすべてを数値化して、自動的に上がってくる仕組みを取り入れた。

「ある目標をセットしておいて、上下にぶれた場合にその原因がわかるように数値化したんですよ。つまり、すべてを人数や時間、お金に換算する。情緒的だったり抽象的な表現は排除して、できるものはみな数字で置き換えた。こうすると報告しづらいということがなくなりますからね」