「送料一律500円」の理由

八潮通販センターの様子。大量の製品が、ピックアップがしやすいよう整然と並んでいる。

耳で「6000点」という商品点数を聞いても、「多いなあ」としか思えないが、作業の現場を見るとそのボリュームは凄まじい。凄まじいが、機能的に分類され、妙にこざっぱりとした印象もある。ピッキングについては、ICタグの導入を検討したこともあるが、結局見送り、従来のアナログなスタイルに落ち着いたそうだ。

【辻本氏】ICタグは途中で投げました。システム化していいところと、人間の能力に頼ったほうがいい部分がある。機械がいいわけじゃないんですね。入社から3ヶ月はダブル(2人)でピッキングした商品をチェックするようにしてますし、ランダムにテストもします。こういうアイデアはパートさんが考えたもの。自主的に改善に取り組んでくれるので、ピッキングミスは以前より相当減りました。

一定金額以上を購入すると送料無料となるネット通販が多いなか、秋月電子は送料一律500円を貫く。理由は明瞭だ。

【辻本氏】ウチのネット通販は店舗の配送としての通販なんですよ。商品の価格は店舗とまったく同じなので、配送料をいただいている形です。たまに、「◯◯は無料だ」とクレームされることもありますが、値段には自信があるので、トータルで比較をしてくださいというのがウチのスタンス。

送料についての考え方もそうだが、秋月電子の商いのスタイルはわかりすくてクセがない。いま風に言えば「顧客視点」が貫かれていてブレがない。客に好まれそうだと判断したものを売る、メーカーから小売価格にちょっかいを出されればアイデアを凝らして客にとって買いやすい価格に設定する、専用ICがなくなって困る客の顔を想定してマイコンを売る。そのどれもを辻本氏は「いや、楽しくやってきただけ」と言うが、その楽しさが客に伝播し、秋月電子と客との関係性は密に強固に築かれてきたに違いない。

●次回予告
コアな優良顧客を多数抱える秋月電子通商。その顧客データは他社から見れば宝の山のように違いない。では彼らは顧客情報をどう扱っているのか。そして壮大なる成長戦略の「矢」とは。次回《辻本昭夫「電子部品」夢が突き動かす次の矢》、11月5日更新予定。

(撮影=松田健一)