――HITの最新型「240」も、12年から、日本でも住宅向けに受注を始めましたね。
【中村】環境問題に関心が高い欧州で、先に販売を始めました。福島原発の事故で、日本でもクリーンエネルギーへの需要が高まっていますので、販売開始を決めました。従来製品に比べ、より多くの太陽光を取り込めるように構造を改良し、最大出力は240ワットに増えました。世界最高水準です。
――普及が進むとみていますか?
【中村】東日本大震災で、日本は「電力は有限、いつ停電するかわからない」ということを突きつけられました。今後、省エネはもちろん、工場や家庭における自家発電・蓄電も重要な道になります。これからは電力もモノと同様に消費するところでつくる時代となり、「家庭で電気をつくり、貯め、それを使う」ということが普通になっていくと思います。
――神奈川県藤沢市の工場跡地につくる「スマートタウン」では、太陽光発電や家庭用の蓄電システムをすべての住宅や施設に標準装備しますね。
【中村】ええ、藤沢市の協力を得て、8社と共同で「自然の恵みを最大限に採り入れた地産地消型の安心・安全なサスティナブルな街づくり」「電力・情報ネットワークが最初からつながり、住民に負荷なく最適制御するスマートな街づくり」を目指しています(図表2)。1000世帯規模で街開きする予定です。
――そうしたモデルを国内外で展開できれば、新産業が育ちますね。
【中村】汎用性のある「18650」は国際的な規格になってきましたが、やはりコスト面から国内で増産していくには限界があり、思い切って、中国で生産することを決めました。そこで利益を出し、利益を日本へ送り、新しい材料や部品の研究を深めたいですね。
ただ、そうした新産業を育てても、自動車や電機などで稼いできた規模になることは困難です。海外へ出ていった部門が、海外勢と戦い、利益を増やして日本の国富に寄与することが欠かせません。先ほど触れたように、すでに利益や配当の送金による所得収支の黒字で貿易赤字を補う形になっていますが(図表3)、所得収支をもっと増やしていかねば、食糧や資源を買う原資が確保できません。言い方は難しいですが、そうした「仕送り国家」を世界最適地での「ものづくり」が支えていくことになります。