日本を代表する科学者集団、花王の挑戦
では、なぜバイオIOSは「良い皮脂」と「悪い皮脂」を“見分ける”ことができるのでしょうか。
花王はそのメカニズムを、「サブの親水基が悪い皮脂と特異的に相互作用するため」と説明しています。
バイオIOSは、大きな親水基(-SO3-)の隣に、小さな親水基(-OH)を持つという特徴的な構造を持っています。このサブの親水基(-OH)が、肌荒れの原因となる不飽和脂肪酸と「水素結合(水素原子を介した分子間の引力)」を形成しやすいのです。
さらに、皮脂の中には不飽和脂肪酸とよく似た「飽和脂肪酸」も存在しますが、花王によれば、「飽和脂肪酸は“固体”で、悪い皮脂であることがわかっている不飽和脂肪酸は“液体”。その運動性も加わり、不飽和脂肪酸だけを“引き抜く”ことができる」とのことです。
花王は、このバイオIOSを皮膚洗浄用途に最適化するため、分子構造のさらなる調整を実施。
そして2025年4月、「皮膚用バイオIOS(オレフィンC16 スルホン酸Na)」を配合し、この技術を応用した初のボディソープ「ビオレ ザ ボディ ととのい肌」が発売するに至りました。
元をたどれば、バイオIOSの開発は「資源の枯渇」という問題意識からスタートしました。界面活性剤の主原料である天然油脂(主にヤシ油やパーム核油)のうち、洗剤に適したものは世界の全油脂生産量のわずか5%程度しかなく、将来的な需要増大に対する安定供給への懸念がありました。
そこで花王は、従来は洗剤用途に不向きとされ、利用が十分でなかった固体油脂に着目。その結果、この特殊な分子構造を持つバイオIOSが誕生し、「油への高い親和性」と「水への優れた溶解性」という、当初の想像を超える高性能を発揮することが明らかになりました。
そして今、「混在する皮脂成分を選択的に洗い分ける」という、新たな可能性が拓かれたのです。バイオIOSは、今後も洗浄技術の常識をくつがえすような、さらなる特性が見出されるかもしれません。
花王は「化学合成の殺虫成分を用いずに蚊を駆除する」画期的な技術や、溶液を肌に直接吹き付けて極細の繊維が折り重なった極薄膜を作る「ファインファイバー技術」など、世界初となる革新的な技術を次々と世に送り出してきた、日本を代表する科学者集団です。
数々のイノベーションの根底にあるのは、「原理の本質理解」だと言います。
「皮脂選択洗浄技術」もまた、界面活性剤の分子構造と機能、そして皮膚表面における皮脂の複雑な挙動という、それぞれの「本質」を深く追究したからこそでしょう。
「肌」という私たちのすぐそばにある日常の悩みが、また一つ科学の力で解き明かされようとしています。




