そして、最後が試合終了後テレビで報道されたサポーターたちの歓喜の様子である。みんな、口々に本田選手の偉業をたたえ、W杯出場を喜んでいる。確かに本田選手は素晴らしいし、出場決定も喜ばしいことだ。
だが、私が考えてしまったのは、はたして今の若者たちには、本田選手に匹敵するような、産業界のヒーローがいるだろうかということなのである。例えば、起業し大きく成功し、社会的にも賞賛されるコーポレートリーダーである。確かに増えてはいる。でも、もっといてもよいはずだ。
海外なら何でもよいというわけではないが、一部の外国ではこうしたヒーローが継続的に再生産されて、若者の起業やチャレンジの原動力になっている気がする。夢見、憧れるリーダーがいて、多くの若者が動機づけられ、自らもチャレンジする、というサイクルが回っている。
日本でも、少し前には三木谷浩史氏や孫正義氏など起業家がおり、大きな成功をおさめた。でも、両氏とも、今は若者から少し遠い存在なのかもしれない。今、はたして日本の企業、というか社会は、若者が努力すれば自分もなれるかもしれないと思うようなヒーローを生み出し、また彼ら・彼女らをきちんと社会的に賞賛しているだろうか。それも経済活動の分野でである。
若者が今、年齢の近い産業界のヒーローとして見上げるのは一体誰なのだろうか。
総じて私が考えたのは、本田選手および6月4日にフィールドにいた選手たちと、今の企業で働く多くの若者の状況との対比なのである。なぜ今の企業では、多くの若者が本田選手やその仲間たちのような活躍ができていないのか。また多くの企業で若い社員に関する問題点が多く指摘されるのか。私が考えた諸々に共通する点はいくつかある。第1は、若手に対して企業が与えるチャンスの大きさや回数である。
例えば、本田選手のPKのところで述べた大きな仕事を任せるという点。まさに今、企業では10年目ぐらいの社員にどれだけ大きな仕事を任せているのだろうか。それも任せる=放任とならない形での任せ方をしているのか。
でも、もしかしたら、こういうことを言うと、企業から反論があるかもしれない。10年目の社員では、まだまだ心配で社運をかけるような仕事を任せることはできません、と。