「サイバー経済戦争」で台湾を内部から疲弊させる

物理的なスパイ工作だけではなく、中国はサイバー空間でも攻勢を強めている。

台湾国家安全局の年次報告によると、重要インフラへのサイバー攻撃はこの1年で6%増えた。エネルギー分野、病院のネットワーク、通信システム、政府機関と、標的は多岐にわたる。

米シンクタンクの民主主義防衛財団は、中国が大規模な政治イベントの時期を狙い、医療システムや電力網を集中的に攻撃していると分析する。電力網を乗っ取ろうと産業制御システムに侵入したり、医療データを盗んでダークウェブで売りさばいたりする手口が確認されているという。

また、台湾の半導体メーカーや軍需産業への侵入も繰り返し試みられている。企業秘密を奪って中国自身の技術力や防衛産業の強化に役立てる狙いがある、と同シンクタンクは分析している。

台湾の国家安全局は1月4日、中国が「サイバー経済戦争(CEEW)」の準備を加速させていると警告する報告書を発表した。CEEWとは武力による全面侵攻に頼らず、サイバー攻撃で経済・社会機能を麻痺させて台北を降伏に追い込む戦略を指す。

報告書によると、Flax TyphoonやAPT41といった表面上は独立している複数のハッカー集団が連携し、それぞれ異なるセクターを分担。攻撃手法を専門化することで、社会全体に混乱を広げる体制がすでに構築されているという。

台湾周辺の地図
写真=iStock.com/GarryKillian
※写真はイメージです

スパイ行為こそ無用な対立を煽っている

台湾も手をこまねいているわけではない。

台湾英文新聞によれば、頼清徳総統は昨年、中国共産党の脅威に対抗する17項目の対策を発表した。中国共産党は台湾社会に浸透し、内部から切り崩しを図る「統一戦線工作」を展開している、と台湾政府は指摘。対策にはサイバースパイ活動への対処や、台湾と中国の交流を利用したスパイ浸透の阻止などが盛り込まれた。

アメリカでも対策の議論が進んでいる。シンクタンクの民主主義防衛財団は今年1月の報告書で、中国がサイバー空間を通じて台湾への経済戦争を続けていると指摘した。そのうえでアメリカに対し、いくつかの提言を行っている。中国による海上封鎖に備えた護送船団作戦の訓練、台湾でのエネルギー備蓄の推進、そして技術アドバイザーを派遣して台湾の重要インフラの防御力を高めることなどだ。

同財団はさらに、台湾・アメリカ・同盟国が足並みを揃えてサイバー防衛を強化するとともに、台湾が北京に反撃できるサイバー能力を身につけ、それを抑止力とするよう支援すべきだと主張する。台湾側にも、官民の連携を強め、重要インフラを運営する民間事業者と政府の間で迅速に情報を共有できる体制を築くよう求めている。

もっとも、軍や大統領府にもたやすく侵入するほど、中国によるスパイ工作は巧妙化している。こうした対策で十分かどうか、予断を許さない。

台湾側としては用心を重ねざるを得ず、民間レベルでの正常な交流すら難しくなる。日本の高市首相発言が対立を煽っていると批判する中国だが、国家間の交流を真に妨げているのは誰だろうか。

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