都市化で「嫌われる施設」の移転が不可能に
大正から昭和に入ってくると東京の都市化が急速に進み、火葬場の移転は考えられなくなった。「嫌われる施設」であり受け入れ場所がない。農村部にあった火葬場の土地は交通網が整備され駅から徒歩圏内の一等地となった。東京博善が提出した有価証券報告書(2019年3月期)に記載された各火葬場の土地面積と帳簿価格は以下の通りである。
・落合斎場(新宿区)8551平方メートル(26億4152万円)
・代々幡斎場(渋谷区)8869平方メートル(877万円)
・四ツ木斎場(葛飾区)1万2448平方メートル(8億5244万円)
・桐ヶ谷斎場(品川区)8244平方メートル(16億3989万円)
・堀ノ内斎場(杉並区)4772平方メートル(1億4151万円)
市区改正後の堀ノ内斎場を除く5斎場は、いずれも約2000坪以上の土地を持つ。帳簿価格は算定時が違ってバラつきがあるが、6斎場合わせて55億848万円である。
都内の不動産価格は上昇を続けており、もちろん時価に直すとそれ以上の価値を持つ。火葬場という特殊性を考えれば算出は難しいが、2024年時の土地事情を踏まえたうえで、複数の不動産業者に「桐ヶ谷斎場の約2500坪が売りに出され、マンション用地として購入するデベロッパーがいた場合」と仮定して算出してもらった。
その結果、「坪単価が500万円から600万円」というのが平均値だった。125億~150億円である。桐ヶ谷斎場の相続税等の財産評価基準である路線価が1平方メートルあたり75万円で、路線価のほぼ倍となる計算だった。乱暴ではあるが、その計算方法で6斎場を試算すると約560億円の価値となる。
東京都に民間の火葬料金を決める権限はない
廣済堂時代の2010年、東京博善は廣済堂に200億円を資金提供するために6斎場を担保に入れていたこともあったが、4年で完済して根抵当権を外し、今は無担保状態である。広済堂HDの2024年11月時点の株式時価総額は約700億円。それに匹敵する土地資産を保有していることになる。
しかし東京都が購入して「住宅地からの火葬場移転」を図ろうとしても、6斎場の代替地など見つからないだろう。仮に移転地があったとしても、23区外か臨海部などアクセスの悪い場所となるのは確実で、都民の利便性は大きく損なわれる。
なにより火葬場は管理監督の責任所在が曖昧だ。東京都が墓地埋葬法上の監督権限を持つが、火葬場についての許認可権限を持つのは、23区の場合は区であり、具体的には保健所の仕事となる。
従って東京博善が火葬場を持つ6区の担当者は、東京博善に運営状況の説明を求めるし、区役所同士は横の連絡を取っており、時期を同じくして立入調査も行う。だが基本的に聞き置くだけで、火葬料金について注文をつけることはないし、その権限もない。価格統制は1954年に終わっている。

