ロシア人が考えている“ぶっとんだこと”

【小泉】しかし、その国家的重心をぐーっと東側に引っ張ってくるべきだというのが前述したカラガノフの持論なんです。実は最近、カラガノフを中心とする研究グループが報告書を出したんですが、そこでは「ロシアのシベリア化」という言葉が使われていました。

経済発展が著しいアジアに近い場所へ首都を移す、というだけではなくて、関係が悪化した西側との間に物理的距離を確保し、さらにはロシア人の「精神的源流」だとカラガノフが見るシベリアに回帰するんだということまで含んだプロジェクトです。

国家の重心をちょうど国土の真ん中くらいに移転させて、欧州国家ではない独自のロシアを作ろうという話ですね。実現性はともかくとして、ロシア人はこういうぶっとんだことを考えてくるところが面白い。そして、カラガノフの唱えるロシアの将来像において、鍵を握るのがやはり中国なんです。ロシアとしては自分が世界の覇権を握れないとしても、アメリカ中心の秩序よりは居心地のいい秩序を、中国と一緒に作っていけるのではないかという期待を持っている部分があるように思うのです。

その中では旧ソ連諸国はロシアの勢力圏としてある程度までコントロールできるだろうという期待もあるでしょう。一方、中国の考える「我々の秩序」というのはなんでしょう? 中国はロシアのように勢力圏をつくる思想はあるんですかね?

中国国旗
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好感度を高めようとする中国政府

【熊倉】政治的外交としては、中国は自分の目的にかないそうな国々と仲良くしようとしています。その例が2023年頃から盛んに言われるようになった「和平之友(平和の友グループ)」ですね。中国の掲げる一見高邁な理想に同調する国を集めて、世界に影響力を行使しようとしています。中国が誘っているのは、ブラジルなど、いわゆるグローバルサウスの国々で、一緒に仲介外交を展開するという主張です。

ウクライナ問題でも、国際的には善意の仲介役という立場を取りました。「和平之友」という表現は直近の中露共同声明に載っていまして、ロシア側もこれを認めざるを得なかった。

この枠組みは、ロシアの「勢力圏」という思想とはだいぶ違うと思います。ロシアの勢力圏の土台には旧ソ連とその影響下にあった東欧諸国があり、地政学的な勢力圏の広がりとも言えます。一方、中国の場合は地続きでもない遠いアフリカや南米の国々と協力して、アメリカを牽制したり、自国の利益を追求していく勢力圏です。

だからこそ、中国は彼らなりに「普遍的な理想」を掲げているのかもしれません。先ほど津上さんもおっしゃったように「他者からどう見られているか」を客観的に観察するのが苦手な彼らが、彼らなりに好感度を高める表現を考えていますね。