話が面白ければ、セツに何度も語らせた

ドラマでは簡略化されて描かれていたが、八雲がセツから怪談を聞き取る時の姿はいささか奇妙である。セツの回想では、こう記されている。

私が昔話をヘルン(註:ハーン、小泉八雲のこと)にいたします時には、いつも始めにその話の筋を大体申します。面白いとなると、その筋を書いて置きます。それからくわしく話せと申します。それから幾度となく話させます。私が本を見ながら話しますと「本を見る、いけません。ただあなたの話、あなたの言葉、あなたの考えでなければいけません」と申します故、自分の物にしてしまっていなければなりませんから、夢にまで見るようになってまいりました。

話が面白いとなると、いつも非常に真面目にあらたまるのでございます。顔の色が変わりまして眼が鋭く怖ろしくなります。その様子の変り方がなかなかひどいのです。

(小泉節子「思い出の記」『小泉八雲』恒文社1976年)

これは、他に類を見ない語学特訓だったともいえる。

想像してみてほしい。セツが本を見ずに、自分の言葉で怪談を丁寧に語る。八雲はあらすじを知った上で、一言一句聞き逃すまいと集中する。だから顔つきが次第に険しくなっていく。そして、同じ話を何度も何度も繰り返させるのだ。