日本がハイパーインフレに陥る可能性はあるのか。元・みずほ証券チーフマーケットエコノミストでマーケットコンシェルジュ代表の上野泰也さんは「条件が重なれば、どの国でもハイパーインフレは起き得る。共通点はおおむね3つだ」という――。

※本稿は、上野泰也『本当の自由を手に入れるお金の減らし方』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。

東京、日本スカイライン
写真=iStock.com/MarsYu
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「朝と夕方でパンの値段が違う」日常

【主な登場人物】

上野泰也:マーケットコンシェルジュ代表。元・みずほ証券チーフマーケットエコノミスト。エコノミストランキングで6年連続第1位を獲得するなど、お金のプロ。

ミドリ:中学2年生。読書が好き。堅実でしっかり者。最近貯金をしている。本記事で父(上野泰也)からお金の本質を学ぶ。

ミドリ:ハイパーインフレって、実際どんなふうに起きるの? もっと教えて。

上野:じゃあ、世界で最も有名なジンバブエでの例を話そう。2000年代後半、ジンバブエでは物価が信じられない速度で上がっていった。朝と夕方でパンの値段が違う。そんなことが日常になっていたんだ。

ミドリ:朝と夕方で値段が違うだなんて、想像できないよ。

上野:原因はいくつか重なっていた。政府が歳出を抑えられず、税収が足りないから国債を乱発し、中央銀行が紙幣を増刷して穴埋めを続けた。市場にはお金があふれ、通貨の信用は急速に薄れる。人々は給料日になると、まっすぐ店に走って粉や食用油を買い込んだ。翌日には同じ金額で買える量が、目に見えて減ってしまうからだ。

ミドリ:「待ってたら損する」ってこと?

上野:そう。だから店は朝に値札を作り直し、昼にも夕方にも貼り替える。ゼロが並ぶお札が次々と登場し、100万、10億、1000億、ついには100兆ジンバブエドルというとんでもない額面の紙幣が出た。観光客は珍しがってお土産に買ったりしたが、現地の人々にとっては深刻な生活のしづらさだった。

一歩外に出ればお金は紙切れに戻る

ミドリ:ゼロがいっぱいのお札、見てみたいかも。でも現地の人は大変だったんだね。

上野:そうだ。年金は大幅に目減りし、請求書は印刷している間にも価値が変わって作り直しが必要。給与は月給制では間に合わず、週払いや日払いに切り替わった。街のお店ではお釣りに渡すのに必要な大量の紙幣がうまく手に入らず、店員がキャンディやマッチで代用することもあった。あるいは少額なら「まけておくよ」と言って取引が成立した。これは、そのエリアだけで流通している「地域マネー」のように、その場の信用だけで支えられるやりとりだった。

ミドリ:ふーん。「そこから外に出たら通じないけど、決められた範囲では信用があって、お金として使える」ってことね?

上野:その通り。信用の範囲が狭いからこそ、一歩外に出れば紙切れに戻る。だから人々は急いで使い切った。娯楽や長期の投資は後回しにされ、生活の基礎に優先的に資金が振り向けられた。スマホのバッテリーがすぐ減るから、まず必要な機能だけ使うのと似ているね。

ミドリ:すごいたとえだね。

上野:「時間とともに価値が縮む」イメージだよ。賞味期限の近い牛乳を、急いで今日のうちに飲もうとするような状態ともいえる。