春口 廣(関東学院大ラグビー部監督)
試練である。31年ぶりの関東大学ラグビー・リーグ戦2部。チーム再建を図るため、名将の春口廣が監督に復帰した。
もう64歳。学生との意思疎通に不安がないわけではない。でもラグビーにかける情熱に衰えはない。「自分は“一生ラグビー"だからさ」と言い切る。
「立場はどうあれ、一所懸命にラグビーをやっていくしかない。そりゃ、ここ(2部)にはいたかねえさ。でも、どこでやるにしても、自分たちが目指すラグビーを、丁寧に丁寧にやっていけばいいのかなって」
努力の人、情熱の人である。1974年に関東学院大の監督に就任。コツコツと弱小チームを強くして、リーグ戦1部の優勝10度、大学日本一6度の強豪に育て上げた。だが2007年、部員の大麻事件で監督を引責辞任。チームは坂道を転がり落ちるように弱体化していった。ついに2部転落。
賛否はあろうが、春口が再び監督としてグラウンドに立つ。指導哲学は変わらない。私生活の規律を重んじ、学生には一生懸命にラグビーに取り組んでもらう。なんといってもプレーは基本重視。
試合では、「激しさ」を求める。今季リーグ戦2部の初戦の白鴎大戦(日大稲城グラウンド)。春口監督は円陣の中でこう、声を張り上げた。
「夢中になってラグビーをやろう! 集中集中! 子どもが夢中になってやるように、激しく、必死に、ラグビーをやろう! 自分たちにどんな力があるか。何ができるか。ここから1つずつ、積み上げていくぞ!」
試合は、124-0の圧勝だった。得点はともかく、無失点がうれしかった。みんなが必死になって、80分間戦った証拠である。「ホッとしたね」と春口監督は顔をくしゃくしゃにした。
2部にいても、春口のラグビーにかける情熱は変わらない。今季の目標は1部復帰? と聞けば、「慌てる必要はないんじゃない」と首を横に振った。
「自分たちが所属しているリーグで負けないで頂点までいく。それをターゲットにしてさ。1試合1試合、1つずつ、1つずつ、丁寧にやっていく。そうすれば、必ず、ひとつずつ成長するんじゃないかな」
正直、持病の心臓病の状態は芳しくない。でも、「一生ラグビー」の春口監督にとって、ラグビーこそが良薬か。からだの具合は? と聞けば、こう笑い飛ばした。
「友だちにドクターがいっぱいいるからいいのよ」
チーム再建はなるのか。春口監督の人生をかけた挑戦が始まった。