最初のケースは、1本の電話から

萬屋さんが体験した最初のケースは、児相にかかってきた1本の電話からだった。

矢満田篤二、萬屋育子『「赤ちゃん縁組」で虐待死をなくす 愛知方式がつないだ命』(光文社新書)
矢満田篤二、萬屋育子『「赤ちゃん縁組」で虐待死をなくす 愛知方式がつないだ命』(光文社新書)

「『妊娠して困っている人がいる』という、他人ごとのような電話でしたが、実の娘のことでした。で、会社で妻子ある男性と交際して妊娠、中絶が不可能な時期に入っていた。男は妊娠を伝えたら知らん顔。娘さんが親に相談できたから、本当によかったんです。妊娠を誰にも知られたくない、親には絶対に知られたくないという方多いです。養親は矢満田さんの担当地区の養子縁組希望の里親。女性は予定日に無事出産し、養親さんが産院に2〜3日通って育児トレーニングを受け、赤ちゃんを引き取りました。女性は赤ちゃんの名前は養親さんにつけていただきたいと言い、養親に赤ちゃんを託しました」

まさに、“三方良し”をその身で実感した瞬間だった。

望まぬ妊娠をした女性を「殺人者」にすることなく、産まれた赤ちゃんは愛情を持って育ててくれる人の腕の中で育つことができる。念願のわが子が自分たちのもとにやってきた大きな喜びに包まれ、赤ちゃんは寒空に放置されることなく、慈しんで育てられる。それが、いかに赤ちゃんにとって大切なことなのか。

「愛知方式」の大きな意義はまさに、今でも変わらずに健在だ。

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