就活面接の相談相手は生成AI
おそらくこの違和感の背景には、面接対策の相談相手として生成AIが使われる機会が増えてきたことと関係があります。
以前は、OB・OG、キャリアセンター、先輩など「人」に相談するのが普通でした。しかし、就活生たちに聞いてみると、今は、ES作成から自己PR、志望動機、さらには模擬面接の回答まで、まず生成AIに相談する若者が増えているのです。
例えば、彼らが好んで使う言葉は次のようなものです。
・多角的に発信して
・課題を抽出して
・価値提供につなげて
・〜を軸に再構築して
・本質的にアプローチして
たしかに、どの言葉も立派で、「できる人」のように聞こえます。ただ、面接でこうしたワードを連発されると、綺麗に整えた文章を読んでいるだけという印象で、自分らしさが感じられません。
まるで「整った文章を読むロボット」のように見えてしまいます。実際に企業の採用担当者からは、こんな声が上がっています。
「みんな同じような表現で話すので区別がつかない」
「質問すると固まってしまう子が多い」
優等生の言葉ほど、内定に結びつかないという矛盾が起きているのです。
言葉は綺麗でも、面接官には響かない
面接官が本当に知りたいのは、難しい言葉を操る能力ではありません。
その人がどんな経験をし、何を考え、どんな感情で行動してきたのかという「人となり」です。しかし、AIで作成した表現はきれいな言葉だけを積み重ねた、それっぽい話になりやすく、「人となり」が伝わりづらいものなのです。
例えば、最近も模擬面接でこんな自己PRをした方がいました。
「プロジェクトの未来が揺れ動く瞬間に向き合い、尽力してきました」
文章としては立派で、どこかドラマのナレーションのようです。でも私はこう伝えました。
「未来が揺れ動く瞬間……かっこいいけれど、それ、普通の会話では使わないでしょう?」
この一言に、本人はハッとしていました。
多くの人が、面接を自分の実績を立派に語る場だと思いがちです。実はそれは違います。面接はコミュニケーション、いわゆる会話をする場なのです。面接官の表情や頷きを感じ取りながら、自分がどんな体験をし、何を大切にしてきたのかを、そのときの気持ちも合わせて伝えていく場なのです。
ところが、AIが整えた文章をそのまま口にしてしまうと、まるで台本(セリフ)を話しているように聞こえてしまいます。どれほど難しい言葉を並べても、「この人はどんな人なのか」という自分らしさが伝わってきません。

