「クックパッドは一般の人がお金をもらわずにレシピを投稿するサイトです。なぜそれが成立するかというと、クックパッドにはユーザーのコミュニティがあり、投稿者はレシピを参考に料理した人から『おいしかったです』と反応が返ってくることで達成感を得られるからです」
いちよし経済研究所企業調査部の納博司主席研究員はそう指摘する。その意味では、クックパッドはレシピを介したコミュニティサイトでもある。その強さを物語るのが2010年に楽天が開設した、レシピ投稿でポイントをもらえる「楽天レシピ」との比較だろう。当時、強力なライバルの登場でクックパッドは危ういのではという見方が台頭したが、いまもクックパッドのシェアは圧倒的で他の追随を許していない。
両者の違いを投稿者のインセンティブという点から見ると、楽天レシピが換金性のあるポイントの付与であるのに対し、クックパッドはコミュニティにおける評価の獲得となっている。結果を見ると投稿者が愛着を持ち、良質のレシピが集積してユーザーの役に立つのは後者であった、と考えられる。
現役の弁護士を突然COOに招聘
クックパッドがユーザーから支持されているのは、徹底してユーザーの側に立ってサービスを構築するという基本的な部分へ愚直にこだわってきたからであり、その根底には「毎日の料理を楽しみにすることで、心からの笑顔を増やす」という経営理念がある。
この理念を掲げ、独自の企業文化を醸成し、事業をリードしてきたのは創業者の佐野陽光氏である。ところが昨年、佐野氏は社長を退任して一取締役の立場になると同時に、かつてカカクコムを社長として上場に導いた穐田誉輝氏が取締役兼代表執行役に、弁護士の石渡進介氏が取締役兼執行役COOに就任した。なお穐田代表と石渡COOは07年から社外取締役を務めており、石渡COOは11年から執行役にも就任していた。
社長を打診されたときのことを、穐田代表はこう振り返る。
「正直、困ったことになったと思いました。社外取締役としてクックパッドを見ていて、蓄積されたレシピ数や利用者数は抜きん出ているが、新たなサービスや事業が立ち上がらないのが弱みと感じていました。もっとサービスを充実させて、世界中の1人でも多くの人に使ってもらえるようにしていきたい、と思いました」