自分がやりたいことと理念が一致している
経営体制刷新の背景には、マネジメントの問題とともに成長戦略という課題もあった。クックパッドの収益は有料会員事業と広告事業の2つに分けられるが、前者は3267万人もの月間利用者数に対し、月額294円の有料会員数は100万人にとどまる。広告事業もレシピ検索サイトだけでは頭打ちになるだろう。しかし以前は足下の業績は好調でも、将来の成長戦略を打ち出せていなかった。
「上場後、それでクックパッドはかなり叩かれました。私も佐野さんに今後の成長戦略について質問したことがあるのですが、何も出てこなかったので『この会社は成熟したかな』と思ったことがあります。おそらくその部分に佐野さんはジレンマがあって、トップ交代を決断されたのだと思います」(納主席研究員)
そして創業者とバトンタッチした新しい経営陣は「17年4月期までに経常利益100億円」という目標を掲げた。13年4月期の経常利益が27億円であるから、野心的な数字である。目標達成にあたって打ち出された方向性は、グローバル進出と、新規事業の立ち上げによる「食に関する生活インフラ」化である。
大きな成功を収めた組織では、成功体験ゆえに新しいチャレンジが難しくなるといわれる。誰がアイデアを考え、立ち上げを担っているのか。
やさい便を担当しているフーズマーケット事業部の保田朋哉部長に話を聞くと、総合商社を経てドイツのマッキンゼーで働いた後、帰国して複数のネットベンチャーを起業した経歴の持ち主であった。佐野氏とは学生時代からの知り合いで、経営者としてよき相談相手だったという。
「飲みながら『世の中、こうあったほうが幸せだ』という話をよくしました。たとえば、料理の材料はもっとおもしろくならないかと。日本でスーパーに行っても同じような商品ばかりであまり楽しくないのですが、ドイツでは市場に行って買い物をする行為そのものが楽しい。日々の暮らしのクオリティが高いんです。そんな暮らしの提案ができたら幸せになれる人が増えるんじゃないかという話をしていたら、佐野が『だったらクックパッドでやれ』と。私は『嫌です』と言っていたのですが、そのうちタイミングが合うようになって入社しました」