いま、空港の進化がすさまじい
これは、駅に限ったことではない。最近では高速道路のパーキングエリアでも、地域の名産品を集めたショップや本格的なレストラン、さらには温浴施設を備えた施設が増えてきた。
その中でも今回は、空港で増加している贅沢空間を取り上げたい。これらの成功モデルを空の玄関口でも展開し、乗り継ぎに限らず、早めに空港に行ってフライト前の時間を楽しむスタイルが急増しているのだ。
旅行会社大手JTBが4日に発表した見通しでは、年末年始の海外旅行者数は前年度比31.5%増の100万人に上る。4~6泊が増え、ハワイ・欧州などが渡航先として人気だという。平均費用は27万5000円と、過去最高になる見通しだ。
コロナ禍を経た旅行需要の回復もあり、羽田空港や成田空港では、搭乗手続きを済ませた後のエリアに、レストラン、ショップ、カフェ、書店、さらにはマッサージやネイルサロンまで、多様な施設が充実している。「ギリギリに空港に着けばいい」という従来の発想から、「早めに行って空港時間を楽しもう」という意識変化が見てとれる。
トランジットに限らず、空港での時間消費という概念は、国内線利用者にも広がっている。空港もまた、移動のためのゲートウェイから新たな価値の創出に全力をあげているのだ。
「30分のフルコース」空港内に三ツ星レストラン
「次の便まであと2時間もある。退屈だな」――そんな溜息が聞こえてきそうなトランジット時間。だが、世界の主要空港を見渡せば、その概念は完全に過去のものとなっている。
ローマ・フィウミチーノ空港には、かつて「アッティミ・バイ・ハインツベック」という革新的なレストランがあった。以前は東京・丸の内にもあった有名なお店だ。イタリア料理界の革命児と称される三ツ星シェフ、ハインツ・ベックが手がけるこの店の最大の特徴は、わずか30分や60分という限られた時間で、至高のフルコースを味わえることだった。
テーブルに置かれた大きな砂時計が、贅沢な時の流れを演出する。店内にはフライト情報の掲示板が設置され、旅行客への心憎いまでの配慮が施されていた。乗り継ぎ便までの待ち時間という限られた制約の中で最高の料理をコースで堪能する――これこそ、「待ち時間」を「楽しむ時間」へと転換する、まさに理想的なモデルだった。
残念ながらコロナ禍で閉店してしまったが、この業態が示した可能性は、今や世界中の空港に広がっている。トランジットという「デッドタイム」は、価値ある「体験時間」へと生まれ変わったのだ。
