世界で初めて認知症患者に認めたオランダ

2002年4月に世界で初めて積極的安楽死と自殺幇助を合法化したオランダは、認知症患者の安楽死を認めたのも世界で最も早かった。

2020年4月、オランダ最高裁は、事前に安楽死の要請をした74歳の女性アルツハイマー病患者の処置をした医師が殺人罪で起訴された案件で無罪判決を下した。この決定によってオランダは、進行性疾患である認知症の患者に対して、自分の意思を表明できなくなる前に書面による安楽死の申請をしている場合、安楽死が法的に認められることになった。

その後、オランダでは認知症患者の安楽死が広く行われるようになり、「地域安楽死審査委員会」(RTE)によると、2022年に全国で8720人が安楽死を受けたが、そのうち288人は認知症患者だったという。

安楽死は患者の自主的な判断を前提としているが、認知症患者は本人の判断能力が徐々に失われるので、安楽死を望む場合は、そうなる前に家族とよく話し合って決断し、申請書を医師に提出することが必要となる。

尊重される患者の意思

オランダでは、医療機関が認知症患者への家族の接し方などについて助言を行っている。

ラドバウダム大学病院プライマリー・コミュニティ・ケア部門の研究者、ジェニファー・ファン・デル・スティーン氏は、同病院のウェブサイトでこう述べている。

「初期の認知症患者は病気の影響をよく理解しています。(中略)患者は自立と尊厳を失うことを恐れ、将来、より困窮し、家族に頼らざるを得なくなることを恐れています。家族に負担をかけたくないのです」

従って家族は患者の気持ちをよく理解し、患者の立場に立ちながら、時には勇気を持って安楽死についても話し合うことが大切である。このような話し合いを通して、患者の安楽死の要請に対して苦悩したり、患者の希望を叶える(共同)責任を感じたりする家族もいるという。

1981年下院選挙でファン・アフトCDA党首が投票する様子。後ろに妻。2024年2月10日、93歳で同い年のユージェニー夫人と共に生涯を閉じた(写真=Hans van Dijk for Anefo/CC-Zero/Wikimedia Commons)
1981年下院選挙でファン・アフトCDA党首が投票する様子。後ろに妻。2024年2月10日、93歳で同い年のユージェニー夫人と共に生涯を閉じた(写真=Hans van Dijk for Anefo/CC-Zero/Wikimedia Commons

オランダが末期患者などの安楽死を合法化したのは2002年4月のことだ。1971年に末期症状の患者に何度も懇願され、致死量のモルヒネを投与したトルース・ポストマ医師が起訴された裁判をきっかけに国内で死ぬ権利の議論が高まり、安楽死の合法化を推進する「オランダ自発的安楽死協会」(NVVE)が設立され、合法化につながったという。

精神疾患者や未成年者も選択できるベルギー

ヨーロッパでオランダと並んで、安楽死合法化の先駆的な役割を果たしているのがベルギーである。この国では、末期患者だけでなく、精神疾患者や年齢制限のない未成年者も安楽死を選択できるようにしたことで話題になった。

34歳の女性うつ病患者のエバさんは何度も自殺未遂を繰り返した後に安楽死を選択し、家族に別れを告げ、医師から致死薬を投与されて旅立ったが、この時の様子は米国の公共ネットワークの番組「PBSニュースアワー」(2015年1月15日)でも放送された。