エバさんに致死薬を投与したのは彼女の主治医を2年間務めたマーク・ヴァン・ホイ医師で、ベルギーを代表する安楽死擁護団体の共同代表を務め、安楽死を100回以上執り行った人物として知られている。

ベルギーの調査では、安楽死は国民の圧倒的支持を得ており、多くの医師は「絶え間なく、耐え難い苦痛に苦しむ患者にとって、安らかに死を迎えるための現実的かつ人道的な手段である」と述べている(同PBSニュースアワー)。

とはいえ、安楽死の実施や手続きに関しては厳しい審査が行われている。医師と弁護士が半分ずつ合計16人で構成される公的な監視機関「安楽死管理評価委員会」(ECEC)は毎月ブリュッセルで会合を開き、安楽死を行った医師が提出した報告書を審査している。

それには患者が安楽死を申請した理由(耐え難い終わりのない苦痛を感じている、本人の自発的な意思に基づいているなど)が詳細に記されており、それが法律で定められた基準を満たしていない場合、医師は殺人罪で起訴される可能性があるという。

なぜ欧州で合法化する国が増えているのか

ヨーロッパでは2002年に安楽死を合法化したオランダとベルギーが先駆者となり、他の国はそれに倣う形で合法化を進めている。

すでに安楽死を合法化した6カ国に加え、イギリス、フランス、ポルトガル、アイルランド、イタリア、マルタなど多くの国が法制化に向けた準備を進めたり、議論を活発化させたりしている。

特にフランスとイギリスは今年5月と6月にそれぞれ安楽死法案を可決し、現在、上院(フランスは元老院、イギリスは貴族院)で審議されている。両国とも医師や宗教関係者などから激しい反対にあっているが、法案成立は近いとみられている。

ヨーロッパの地図
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欧州で安楽死を合法化する国が増えている背景には冒頭で述べた社会意識の変化や高齢化などに加えて、宗教的な影響力の低下や世論の変化などがある。

たとえば、カトリック教会は歴史的に安楽死に対して強い反対の立場をとってきたが、最近は社会の世俗化もあって、宗教的な影響力が弱まわっているように思われる。

それを証するように、カトリック人口の多いスペインで数年前に安楽死が合法化され、また、同様の状況にあるポルトガルやイタリアでもこの問題について活発な議論が行われ、将来的な合法化の可能性が指摘されている。

このように様々な要因が絡み合って世論が変化し、安楽死に対する肯定的な考えを持つ人が増え、結果的に法制化を求める政府への圧力となり、合法化につながっているのである。