インフレ環境で景気刺激策を強行するリスク

現在、わが国の経済全体で需要は供給を上回って推移している(供給制約)。経済学の理論では、インフレ環境では、中央銀行が利上げを行って物価の上昇を抑えることが必要だ。

それと同時に、政府は、的を絞った財政出動を進めつつ、主には規制緩和や先端分野での研究開発、設備投資の支援を実施するなど構造改革を実行する必要性は高まる。その成果として、成長期待が経済全体で高まり、新しい需要創出に取り組む企業が増加する。それは、物価の安定と持続的な経済成長につながるはずだ。

ところが、高市政権は、物価が上昇している中で、アベノミクス時のような景気刺激策を重視している。「責任ある積極財政」に基づき戦略的に財政出動を実行する。税率は引き上げない。それにより、わが国の供給制約を打破し、企業業績の拡大と所得増加を実現するのが高市首相の主張だ。ただ、高市首相は財政出動の財源をどうするか、明確な方策を示していない。結局、国債発行に依存することになる。

第96代安倍晋三首相(当時・2012年撮影)
第96代安倍晋三首相(当時・2012年撮影)(写真=首相官邸/CC BY 4.0/Wikimedia Commons

このままでは英国やトルコの二の舞になる

首相は、日本成長戦略会議、経済財政諮問会議の議員に、積極財政・金融緩和策を重視するリフレ派人材を複数登用した。11月21日に公表した、「強い経済」を実現する総合経済対策は、わが国経済は“デフレ・コストカット型経済”にあると指摘した。高市首相の、経済認識は依然としてデフレを前提にしているように見える。それは、インフレ状況にあるわが国経済の実態と異なっているとの指摘は多い。

物価が上昇している中で、積極的な財政政策を打つとインフレ率はさらに上昇する恐れは高い。そうした例は、英国、トルコなどにみられる。物価上昇圧力を反映して金利は上昇する恐れは高い。特に、財政悪化懸念から、残存年数が長い超長期金利は跳ね上がるだろう。投資家は財政悪化リスクが高い国の通貨を安心して持ちにくい。

今後、日銀の利上げがあっても、そのペースは極めて慎重かつ小幅なものにとどまる可能性は高い。円売り圧力を解消し、経済の安定した成長に必要な為替レートの実現をわが国が目指すことは容易ではない状況が続くと懸念される。