記憶から消えない「1943年9月30日のこと」

父はルーマニア出身のユダヤ人で、フランスに移住した。ナチ・ドイツの侵攻後、ユダヤ人の捜索が強化された頃、一家は南仏ニースで暮らしていた。父アルノはそうした事態に備え、クローゼットに仕切りをつくり、隠れ場所を細工していた。

セルジュは「シナリオ」を覚えているという。もしゲシュタポがアパートにやって来たら、父がアパートは消毒中で、家族は田舎に送ったと言って自ら捕まる。もし父もいないとなると、ゲシュタポは銃床で壁や棚を叩き壊していく恐れがあり、家族全員の命が危ない。父はこう伝えていた。「私は強い。生き残れる。でもお前たちはそうではない」

捜索はいよいよ自宅に迫った。「1943年9月30日のことです」。80年経っても、その日付ははっきり記憶に刻まれていた。このままでは発見を免れることは困難と考えたアルノは、妻と娘、そしてセルジュを残し、出て行った。捕まり、家族はここにはいないと説明した。ドイツ人たちは完全には信用せず、クローゼットの扉を開けた。だが、仕切りには気づかず、セルジュらは難を逃れた。