安倍元首相の長期政権を意識
安倍晋三元首相の後継者を自認する高市首相は、安倍氏が財務省と戦いながら、国民の高い支持を背景に長期政権を築いたことを強く意識している。安倍政権誕生まで、首相官邸は財務省出身の首相秘書官が仕切り、財務省の意向に従わない内閣は行き詰まっていたとされる。そんな中で安倍内閣は経産省の官僚を中核に首相官邸の体制を固め、政治主導で改革を進めた。
2013年に安倍首相が打ち出したアベノミクスによって景気は回復に向かうかに見えたが、2014年4月に消費税を5%から8%に引き上げた結果、景気回復ピッチが鈍化することになる。アベノミクスを支持していた元財務官僚で経済学者の高橋洋一氏は当時、飛行機が上昇して途中で逆噴射するようなものだとして、消費増税に反対したが、財務省の増税の影響は短期間で解消されるという説明を受け入れて増税に踏み切った。
当時2015年10月に8%を10%に再度引き上げることが決まっていたが、安倍首相は2014年7~9月期のGDPが成長軌道に戻らないのを見届けた上で、2014年11月に消費税の再増税の先送りを決断している。当時、安倍首相に近い議員は、首相が「財務省は嘘をつくから」と吐き捨てるように言っていたのを聞いたという。以来、安倍首相の財務省への不信感は強まり、官邸での財務省の影響力がことごとく削がれることとなっていった。
就任早々、財務省に先制攻撃を加えた
高市氏は安倍首相の財務省との対立をよくよく知っていて、就任早々、財務省に先制攻撃を加えたとみることもできる。高市体制の人事をみてもこの点は明らかだ。
高市氏は自民党税制調査会会長で財務省出身の宮沢洋一氏を交代させ、小野寺五典氏を新会長に登用した。また、「インナー」と呼ばれる幹部の非公式会合のメンバーには、経産官僚出身の西村康稔氏や、高市氏に近いとされる山際大志郎氏を送り込んだ。高市氏は人事を行う前の10月12日にSNSのXで「(優秀な財務官僚が作った)案を、税制調査会の役員会で精査した上で、税制調査会の全体会議(国会議員は自由に参加可能)で議論をして決める」とし、インナー会議で財務省主導のまま税制を決めてきた現状を変え、透明性を高めることを宣言した。
また、高市内閣の財務大臣に片山氏を任命したことも、財務省からするとやりにくいことこの上ない。片山氏は1982年大蔵省(現財務省)に入省、女性初の主計官を務めた。もちろん、財務省の仕事の進め方や考え方を熟知している。さらに、現在の財務省事務方トップの新川浩嗣事務次官は1987年の大蔵省入省だから、片山氏の5年次後輩である。霞が関は年功序列社会で、ほぼ入省年次でポストが決まる。先輩は絶対である。高市氏の指示の下、片山氏が財務省に本気で斬り込めば、財務省は防戦に追われることになる。

