公立病院長よりも、診療所院長のほうが高年収

23年11月24日、東京・内幸町うちさいわいちょうのビルにある大型の貸会議室。オンライン参加も含めて中医協の調査実施小委員会が開かれ、医療機関の経営状況を調べた「第24回医療経済実態調査」(実調)の結果が、厚労省保険医療企画調査室長の荻原和宏から報告された。

実調は医療機関ごとの収入や経費について前年度と前々年度をサンプル調査し、回答を集計している。その中で、医療機関ごとの医師らの平均年収(給与+賞与)が明らかになった。

医療法人立の一般診療所の院長(理事長)の平均年収は22年度が2653万円で、国立病院の院長1908万円、公立病院の院長の2088万円を大きく上回った。国立・公立を除く一般病院の院長の年収は3021万円。診療所も有床診療所の院長に限れば3438万円に上った。

看護職員は診療所と病院とで、仕事内容や労働時間の違いがあるので一概に比較はできないが、病院の521万円に対し、診療所は409万円だった。日本人の年間平均給与は458万円(国税庁調べ、22年分)だから、診療所院長の年収はその6倍近くとなる。

「院長の給与を下げて職員の賃上げを」「日医が『診療報酬の大幅アップなしでは賃上げできない』と言うのは論外。診療所の理事長(院長)が自分の給与を少し引き下げれば、職員給与のアップはできる」

医療機関の財務データに詳しく、依頼されて医療法人の専務理事を3年間務めた経験もある元キヤノングローバル戦略研究所研究主幹で、武蔵野大国際総合研究所研究主幹の松山幸弘ゆきひろは取材にそう断言した。

診察する医師
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一般診療所の経常利益は1年で2倍に

医療法人は事業報告書や財産目録、貸借対照表、損益計算書などを都道府県に届けて情報開示する義務がある。

松山は東京都内の医療法人6599について、21年4月から22年12月の間に情報開示された事業報告書を入手し、コロナ禍の20年と21年の業績を比較するため、2年連続で報告書が開示された1810の医療法人を分析した。松山が分析したところ、一般診療所を経営する1089の医療法人の経常利益率は4.0%から8.3%に伸びていた。

この傾向は財務省の機動的調査や日医の独自分析とも一致する。さらに1法人を除く1088の医療法人を約10年ごとに古い順に4分類し、法人登録から約30年を超えている法人を第1期、約20年超を第2期、約10年超を第3期、10年未満を第4期として分析したところ、最も新しく開業した第4期の診療所の平均経常利益率が11.6%と最も高く、古くなるにつれて第3期9.1%、第2期5.5%、第1期4.9%と低下していた。

分析過程で「医業収益79億円、経常利益率30.7%」という突出した収益構造の医療法人があったが、これは除いたという。