医療法人を私物化するケースも

松山は「当該医療法人のホームページから判断すると、PCR検査、ワクチン接種、発熱外来などコロナ医療に積極的に取り組んだ成果のようだ」と推測する。

その上で、「開業10年未満の第4期よりも、開業から10年以上過ぎ、経営が安定しているはずの第3期の方が、経常利益率が低くなっている。その理由としては、理事長自らが自分の給与を引き上げたことが最も考えられる。

第2期と第1期にさらに低下している理由としては、理事長がもう一段自らの給与を引き上げたことに加えて、後継者のいない理事長が将来の閉院に備えて利益剰余金を給与の形で取り崩していることが推察される」とした。

医療法人は公益法人のため、後継者が不在で解散する場合、残った利益剰余金は国庫に返還しなければならない。だが、解散前に院長が自身への給与として取り崩すことは可能なので、それをせずに国庫に返還するとは考えにくい。

松山は「最も古い第1期の272法人のうち診察を縮小して医業収益を5000万円以下として内部留保を毎年取り崩していると思われる法人が58確認でき、中には医業収益がゼロなのに、医師給与を計上しているとみられる法人もある」と明らかにした。

医業収益ゼロで給与を計上している状態とは、診療は行わないものの法人は存続したまま、内部留保を取り崩して給与だけを得ている状態だという。

「診療報酬の引き上げ要求」は論外

「長年、診療報酬改定の基礎資料として使われてきた厚労省の医療経済実態調査は、この内部留保の取り崩しによる経常利益率の低下を看過して診療報酬を引き上げてきたことになる」と、これまでの改定に疑問を投げかけた。松山の危惧通りなら、診療所の経営実態は実態よりも過小に評価されていたことになるからだ。

松山は15年に日医の依頼で「医療介護福祉制度改革の論点整理」という講演をしたこともあったが、今回は手厳しい。

「診療所は医療法人といっても実態は理事長の私有財産であるので、理事長が自らの給与の引き上げを決めるのは自然だが、自分の給与を大幅アップさせる財源が毎期あるにもかかわらず、『診療報酬の大幅アップなしでは、賃上げは成し遂げられません』と主張するのは論外と言わざるを得ない」

日本医師会館=2023年3月19日、東京都文京区
写真=時事通信フォト
日本医師会館=2023年3月19日、東京都文京区