売れない、アイデアが出ない、人が付いてこない。落ち込むことは誰にでもある。問題はそこからどう回復するか。一流ホテルの社長、トップセールスマン、学校改革の旗手など、第一線で活躍する人たちが自分だけの秘法を明かしてくれた。
品川女子学院校長の漆紫穂子さんは創立者の曾孫である。大学卒業後、他校で教職に就いていたが、学校の経営危機と副校長をつとめていた母の病気を機に品川女子学院へ戻ってきた。
その後、大胆な学校改革を進めたことで同校は多くの入学希望者を集める人気校に変身し、偏差値も急上昇。「28歳になったときに自立している女性を育てること」を教育目標として掲げ、企業の現場や伝統文化に触れさせる独自の教育スタイルが生徒や父母の共感を呼んでいる。
改革の中心だった漆さんは、6年前に校長に就任した。従来も副校長としてリーダーシップを発揮してきたが、立場が変われば自覚も変わる。とたんに体の不調に見舞われた。
「難聴になるなど、ストレス性の病気で入院もしました。校長になって2カ月目、鍼灸師さんから『このままでは体が仕事をさせてくれませんよ。休むことを仕事としてください』とアドバイスされました」
意気込みが空回りしたら
原因ははっきりしていた。「校長とはこうあらねばならない」というセルフイメージに縛られ、無理を重ねたせいである。たとえば、いかなるときも学校と一体化していなければならない、何があっても恐れてはならない、怒ってはならない……。
鍼灸師の言葉でふと我に返った漆さんは、次のように自問したという。
「私はどうしてクヨクヨしたり、イライラしたりするのか? カッとするのはどういうときか? 大人が子供より自己都合を優先していると感じるときではないか。だとしたら、その底には『生徒や卒業生が何よりも大事だ』という思いがある。それは私にとって譲れない価値観だ。ならば、どんな私の感情も、否定するのではなく大切なものと考えよう」
そのうえで「怒りや恐れをいったん保留することを心がけた」という。